これから
「また、大事なものが突然無くなる怖さ、知ってしまったから」
だから。
敢えて大事なものは作ろうとしなかったのです。
私はほう、と息を吐き、目を閉じました。
これまで私は、自分一人でもこの世界で生きて行けるように、いつでも心の準備はしていました。
だれにも頼らず、自分の力で歩いて行く。
そのためにも、メグちゃんやショウくんに頼りすぎないように気を付けていました。メグちゃんたちに少しでも執着心を持ってしまうと、それを失う時、私はまたどうしようもなくさびしくて、孤独の怖さから、一歩も進めなくなることが安易に予想されたからです。
メグちゃんはいつでも優しく私を包み込んでくれました。こんな頑なな心の私でしたが。
ショウくんはいつもストレートに気持ちを伝えてくれていました。現に今も、先程私に話し出す勇気をくれた優しくて大きなショウくんの手は、私を包んでくれています。
でも、それらを、もはや無邪気に受け入れることはできなかったのです。
それでも、色々なトリッパー様と出会い、よくわからない出来事に巻き込まれていくうちに少しづつ『大切なもの』の『大切さ』を思い出したのです。
信じることの大切さ。信じることで起きる奇跡。
そして、絆。
「……でもね、やっぱり大切なものってできちゃうものなんだね。知らないうちに」
へへ、と笑いメグちゃんを見ました。
「そうだよ。だからリサは前の理紗のように戻ることができたんだから」
メグちゃんは優しく微笑みました。
ショウくんは、私を握る手に力を込めていました。メグちゃんを見、それからショウくんを見ると、こちらも優しい微笑みでした。
「で、二人はこれからどうする?」
メグちゃんはお父さんとお母さんに尋ねました。
お父さんたちは互いに顔を見合わせ、
「こっちに生まれ変わったばかりですし、突然どうすると言われても……」
苦笑いでお父さんが言いました。そりゃそうですよね。
普通、転生様やトリッパー様が来た時、私たちが行く先や仕事などを斡旋しているんですからね。自分から選ぶことはまずありません。てゆーか、まったく違う世界なのにこれからの生活のことを選ぶもへったくれもありませんよね。
「そりゃメグちゃん、無理な質問だよ」
「まあ、確かに。じゃあ、理奈や恭一の持ってる能力を欲しいと言っている所があるわ。そこに行く?」
いつものように、虚空からメグちゃんはメモを取りだし、適当なところを見繕いながら言いました。
「そうですね。ここからそんなに遠くないのなら」
お父さんが答えました。
「あら、それは大丈夫よ。この隣の村だからすぐよ。転移魔法の使えないリサが歩いて行けるほどに近いから」
パチン、とウィンクしながらメグちゃんは言いました。それを聞いてほっとしたのか、お父さんもお母さんもお互い目を見交わし、穏やかに微笑みながら、
「では、僕たちは何の文句もありません。ありがとうございますメグさん」
ぺこり、とメグちゃんに頭を下げました。
「いいのよ。これが仕事だから。で、リサ」
「何? メグちゃん?」
「あんたはどうする?」
「え?」
それまでお父さんたちに向かって話していたメグちゃんが、ふいっと私の方を見て言いました。え? 私ですか?
「私?」
「そう、リサ、あんたよ。理奈たちにくっついて一緒に行くの?」
「あー……」
そういうことですか。
両親の落ち着き先が決まったから、次は私ということですね。今までは身寄りもなかったし、そもそもメグちゃんに召喚されてこちらに来たということもあって、メグちゃんちに居候していましたが、保護者(ってもうそんな歳じゃないけど)が出てきた今、メグちゃんちに居座る理由は無くなりましたからね。
両親と一緒に暮らすか、それとも違うところで一人暮らすか。
以前の私ならば『じゃ、ここから出て一人暮らしします!』ってすぐさま宣言できたと思います。
でも、今の私は……
「う……ん。急なことだからごめん、まだ気持ちの整理がついてなくて。ねえ、メグちゃん。もう少し考えさせてもらってもいい?」
何とも歯切れの悪い答えになってしまいました。
「もちろん。今まで通りここに居るのだって大歓迎なのよ?」
「ありがとう。お父さんたちが新しい場所で落ち着くくらいまで、じっくり考えさせてもらってもいい?」
「どうぞ。ゆっくり考えなさい」
「本当は、すぐにでも出て行くつもりだったのにね」
えへへ、と私が自嘲気味に笑うと、
「こうやって迷ってもらえるようになっただけ、私としてはうれしいわ」
にっこりメグちゃんは笑いました。
お父さんたちはすぐさま移住先に向かうことをせず、数日『魔女☆メグの家』で私たちと過ごした後、メグちゃんに送られて隣村に転移していきました。
一緒に寝起きして、今までのことをいろいろ話して。
「がんばったね」
と言って二人に抱きしめてもらって、私の中に温かいものが充電されていく気がしました。
転移するのをショウくんと二人で見送った後。
「リサ~。たまには気分転換に、ちょっと散歩でも行こうか」
何気ない風をして、隣に立つショウくんが言いました。私よりも少し高い位置にあるショウくんの顔を見上げて、
「うん。久しぶりに外行きたいね。どこへ行こう?」
私はニッコリと笑いかけました。
今日もありがとうございました(^^)
やっぱり一話では完結できませんでした……orz
あと一話……か二話(笑)←伸びてるやん!?




