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蘇った記憶

魔王様をやっつけに行くのに2週間ちょいかかってしまいました。

その間私は、戦うでもなく癒すでもなく、ただぷかぷか人質として浮いてただけなんですけどね。いやー、ショウくんの強さを見せつけられる旅でしたよ。あ、勇者サマも強かったですよー。人としてどうよ的な感は否めませんが。


相変わらず勇者サマの召喚は途絶えませんが、淡々と送り出しています。もう関わりたくありませんのでね。


「2週間も仕事をほったらかしちゃってごめんね」

「それはリサのせいじゃないんだから気にしないの。ま、その間そんなに忙しくなかったしね」

「ならよかったー」


にっこり笑ってくれるメグちゃんにほっとします。

別にメグちゃんから『この仕事をやれ』って言われてやってるわけじゃないんだけどね。




今日もなんだか開店休業な日です。

私とメグちゃん、ショウくんはまったりのんびりお茶タイムです。つい先日まで戦闘に明け暮れていたので、こういう平和に飢えていましたとも! 平和万歳! ノーモア魔王!

そういや亜空間の森は、魔獣こそ生息しますが、魔王とか大魔王と言った類は出てきません。というのも、タウロス山の結界とメグちゃんの結界に護られているからだそうです。

ありがたや~ありがたや~。

ほこほこと湯気を立てている紅茶を味わう幸せ。あ~今日はアールグレイですね。ベルガモットの香りが鼻腔を抜けていきます。ふふ、違いが判る女です☆


「今日は召喚予定はないわね?」


優雅にお茶を飲みながらメグちゃんが聞いてきます。


「うん。リストにはなかったわ。だから来るとしても転生さんかトリッパーさんね」


目をつぶり、リストを思い出しながら私は答えました。

その時。


コンコンコン


入り口扉をノックする音が聞こえてきました。


「ノックをするってことは村人かな? オレ、開けてきます」


ショウくんが椅子から立ち上がり扉に向かいました。




「うちの子たち、実は転生者だったんですよ」


近くの村から来たというペルセウスさんは、隣に座るベガとアルタイルという姉弟を目で示しました。深い青色の瞳が印象的な姉弟さんです。


「今までは普通に暮らしていたのね?」


メグちゃんが優しい微笑みで姉弟たちを見ています。


「はい。私はベガといい、12歳です。弟のアルタイルは8歳です。つい最近、本当に突然前世のことを思い出したんです」

「朝起きたら思い出していたというか。僕とお姉ちゃんは、前世でも姉弟だったんです」

「へえぇ。よっぽど絆がつよかったんですね!!」


利発そうなベガとアルタイルの言葉に、私はすっかり感心してしまいました。前世でも姉弟、今生でも姉弟なんて、よっぽどの執着か、すごい偶然です!


「いろいろ苦労をしてきたので……」


ほろり、とベガが涙を流しました。


「お姉ちゃん、泣かないで」


そっと姉の肩を抱くアルタイル。ああもう、姉弟愛ですよ!! こっちまでもらい泣きしちゃいそうです。まだ話は聞いてないけど。


アルタイルに慰められ、涙を止めたベガはしっかりした口調で話しだしました。


「私たちはまあまあ裕福で幸せな家族でした。しかし、父が病で亡くなると、悪い人たちが現れて財産を全部だまし取っていってしまったのです。無一文になった母と私たちは、遠い親戚を頼って旅に出たのですが、その途中でまた悪い人にだまされて、母と私たちは離れ離れにされてしまいました。その後の母の行方は分かりません。私たちは人身売買に遭いそうになりながらも逃げ延びて、なんとか這い上がることができました。しかし母の行方はいつまでも判らないままでした」

「もう転生してしまっているかもしれないのですが、でも、また会える気がするんです。だから突然に前世の記憶が蘇ったのだと思うんです」


ベガの話を引き取って、アルタイルが話を続けました。うーん、さすがは前世の記憶があるだけあって、ただの12歳と8歳とは思えん賢さです。

あーしかし。前世の記憶だけでひとつドラマができそうなくらい、波乱万丈な人生を送ったんですね。

すっかり私はもらい泣きしてしまいましたよ。さっきからショウくんの腕の中でえぐえぐ泣いております。


「今はこちらの父や母に大事に育ててもらって、幸せに暮らしていますが、会えるものなら会いたいと思うんです。ちゃんと幸せになっているって伝えたくて……」


あー、涙がちょちょぎれてしまいます!! 何ていい子たちなんでしょう!!

私とは違って冷静なメグちゃんは、二人の様子に柔らかく目を細めたかと思うと、


「ふーん。でも、今のところそう言った女の人は現れてないのよね。わかったわ。ちゃんとメグちゃんメモに記しておくわ」


安心させるかのように、ベガとアルタイルの頭をポンポンと叩いています。


「「「ありがとうございます」」」


親子三人目を潤ませてます。


「今すぐ現れるかどうか判らないから、気長に待っててね」

「「はい!」」

「現れたら連絡するから」

「「わかりました! よろしくお願いします!」


そう言うと椅子から立ち上がり、深々と頭を下げる姉弟です。うん、礼儀も確かです。これはきっと前世はいいとこのお坊ちゃんお嬢さんだったのでは、と推測されますね~。

私もこの件はしっかり頭に置いておくことにしましょう!




そして、姉弟は帰って行きました。


今日もありがとうございました~! (^^)

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