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自由交易都市に風は吹く~風はその名の通りに自由で~

「あなたは誰?さっきの人とは違うみたいだけど」

「はじめまして私は、………といいます」

「魔女さん?」

「そうですね。そう呼ばれていました」

sidechangetoリップル

私が目を覚ましたのは、満月が輝く夜のことだ。

『?』

ふと気がつくと、自分は満天の星空の下屋根の上に座っていた。

「やっと解放された。自分の体というのは、失ってからでなければその重要性にすら気付んとは…いやはや」

身長およそ120cm程の緑髪の少年がそこにいた。

『…シルフ?』

「そうだ。自由を司る風、そのものだ」

『…なんでここにいるの?』

「ここに囚われていたからだ」

『なんで?あなたは自由なんでしょ』

「そうだな、僕は自由だった。そう、だったのだ。およそ百の年月前に彼女を見つけるまでは」

彼の記憶は、その百年も昔に遡る。

その日も僕は自由気ままに、空を飛んでいたんだ。

その村についたのは、全くの偶然だった。

その少女に出会わなければ、僕はこんなところでこんな目にあってはいなかっただろう。

その少女も僕と出会わなければ、あのような死に方をすることはなかっただろう。

もしもの話だがな。今となっては意味のないことだ。

僕はその時の彼女の純粋な魂に惹かれたのだ。

それゆえに契約をした。

緑天石は母の形見だったそうだ。

彼女は僕と契約したことで寿命というくびきから逃れた。

しかしそれは閉鎖的だった村で、孤独になるということを意味していたのだ。

程なくして彼女は、僕と共に村を離れた。

それからすぐだった、村は正体不明の何者かによって焼き尽くされてしまった。

風の噂でそんなことを聞いたのだ、愚かにも僕はそれを聞かせてしまった。

彼女にとってそこがどれほど大切な場所であったのか、それをまったくもってわからずにいたのだ。

それを聞いた彼女はそれからまるで生き急ぐかのように、その犯人を探し始めた。

彼女に無制限とも言える寿命を与えたのは、間違いだったのかもしれないと思ったよ。

この都市に来たのは、その関係からだ。

しかし彼らにとって、僕たちが来たことは渡りに船だった。

なぜなら目的は僕であり契約していた彼女なのだから。

つまり村放火は、彼らにとっての八つ当たり程度のものだったのだ。

そうして僕は捉えられ自由をなくし、彼女はその罪のままに彼らに加担した。

そうして過ぎた月日が、彼女を変えていったのだ。

彼女に寿命がなくなったからといって、それが=死なないではないのだ。

老衰による死がなくなっただけ、それゆえにそれ以外で死ぬことはありえる。

だから彼女は死んだ。

「感傷に浸っているな僕は」

『あなたにとって、彼女は自由を捨てても共に生きたかった人なんでしょ』

「だが結果はこのざまだ。僕は自由だ、だがその自由はこんな犠牲の上に成り立っていると考えてしまえば僕は自由ではなくなってしまう。考えないようにしていたのだがな」

『……ならば、背負うんです。その自由の犠牲を』

「できるのか?」

『これまでのことはわかりませんが、彼女のことを背負うことはできます』

「どうやってだ?」

『こうやってです』

おもむろに右手に杖を出現させて、杖の先端を一回転させる。

『はい、これがあなたの彼女への後悔を圧縮したものです』

その左の手のひらにあるのは、くすんだ緑色の宝石。

受け取ったシルフは、

「重いな」

とだけ言った。




少しして真面目な顔になったシルフがこちらに向き直り、

「それでは新たなる所有者よ。汝は僕、自由なる風シルフに何を望む?」

『ん~……あなたに自由を与えましょう』

その言葉を聞いたシルフはやや驚きながら、聞いてきた。

「いいのか?」

『うん、私にとってあなたは仕えて欲しくない。それはあなたの能力の問題じゃない』

「では、なんだというのだ」

『自由なる風よ。あなたはその名の通り自由であるべきなのです』

と言って額に張り付いていた宝石を取ると、左手の甲につけ、右手に持った杖の先端で触り、

『契約の戒めを解き放たん』

そう言うと宝石から光が溢れる、その光はシルフを包み込みそして、

「……久しいな私のこの姿は」

少年っぽさのあったシルフは、美青年へと変化していた。

身長およそ175cmスラッとした格好良いを擬人化したらこんな感じだろうなぁと思えるような男性になった。

『……ロリコン?』

「なんだその、ろりこんとやらは」

懇切丁寧に説明してあげました。すると、

「……ふむ、精霊が契約したくなるような綺麗な魂の持ち主が殆どそうなのだから、そう言われても仕方がないな」

納得されたよ。

「私は、彼女とどうして契約してsっ!」

『私はリシアじゃないし、リシアになれない。代わりになるつもりもない。でも!』

杖でシルフを殴りながら、

『あの子はあなたが自分にとってかけがえのない者だと知っていたから!だから、あなたは託された。声は、あなたじゃない彼女だった』

「……なんと言っていたのだ」

静かに起き上がったシルフが聞く、

『「彼を助けて、私じゃ無理だから」そうずっと言ってました』

「自分が助かりたいとは思わなかったのか?」

『そんなことは一言も』

「…そうだな。あの子はそんなことを言えるような子じゃなかったからな」

自嘲するように言った。

シルフはそのまま立ち上がると、あのくすんだ宝石を持ったまま。空にふわりと浮かんだ。

「世話になった。これは感謝の印だ。受け取って欲しい」

そう言って私の左手をとり緑天石に口づけをした。

『祝福をくださりありがとうございます』

「最初からそれが狙いだったのだらう?」

『私は何も言っておりませんよ』

「そういうことにしておこう」

シルフは笑うとそのまま空の彼方へ去っていった。

『最高のプレゼントだよ』

「帰ってきた…か」

「来るときはいつもひとりだな私は」

「さぁ、およそ百年ぶりの故郷だ」

「本当は、もう一度二人で来たかったのだがな」

(これましたよ)

「?!」

(実のところずっとあの子の中で聞いていました)

「…恨んでは」

(いませんよ)

「そうか」

(しばらく昔のように語らいましょう)

「そう…だな」

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