表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

今も君の歌を探している

作者: Wataru
掲載日:2026/05/17

ライブハウスの楽屋は、

いつも少し煙草臭い。


壁際のソファ。


使いかけのエフェクター。


空になったペットボトル。


玲は、

その端で静かにギターを弾いていた。


リハ前。


誰もまだ喋っていない。


指先だけが、

淡々と音を鳴らしている。


悠希はその音を聞くのが好きだった。


優しいくせに、

どこか寂しい音。


ずっと、

誰かを探してるみたいな音。


「……またその曲?」


玲は顔を上げない。


「ああ」


「好きですね」


「別に」


嘘だ。


そのメロディを弾く時の玲は、

いつも少しだけ遠い。


今ここじゃない場所を見てる。


最初は分からなかった。


でも、

長く一緒に音を鳴らしていると、

嫌でも気づく。


この人の中には、

今でも消えない誰かがいる。


昔、

同じバンドで歌っていた人。


玲は、

多くを語らない。


けれど酒が入ると、

たまに昔の話をする。


「アイツさ」


そう言って、

少し笑う。


その顔を見るたび、

悠希の胸の奥は静かに痛んだ。


ああ。


この人、

今でもずっと大事なんだなって。


二十年以上経っても。


呆れるくらい、

真っ直ぐに。


「……会えばいいじゃないですか」


ある日、

悠希は何気ないふりをして言った。


玲は煙草を咥えたまま、

少し黙る。


紫煙が、

ゆっくり空気へ溶けていく。


「……いや、いい」


静かな声だった。


その返事が、

悠希には少し意外だった。


会いたくないわけじゃないと思っていた。


むしろ、

今でもずっと会いたいんだと。


でも玲は、

会わないことを選んだ。


悠希は、

煙草を持つ玲の横顔を見る。


ああ。


そんなに特別なんだ。


胸が少し痛んだ。


でも同時に、

綺麗だと思った。


好きって、

全部“手に入れたい”じゃない。


ただ、

相手が笑っていてくれたらいい。


そういう気持ちもある。


……いや。


本当は、

少しは振り向いてほしい。


隣に立ちたい。


でも。


玲のギターが、

一番綺麗な音を出す瞬間を、

悠希は知ってしまった。


昔の話をする時。


あの人の声を思い出してる時。


それが、

悔しかった。


でも、

その音を好きになってしまった。


だから思った。


そんなに大事なら、

曲にした方がいい。


言葉にしないまま、

消えていく方が悲しい。


「玲さん」


「あ?」


「この曲、やりませんか?」


玲が顔を上げる。


悠希は笑った。


照れ隠しみたいに。


「想いって、

伝えなきゃ伝わんないじゃないですか」


玲は、

少しだけ目を細めた。


その顔が、

泣きそうに見えたのは、

たぶん気のせいじゃない。


俺たちは、

口下手で不器用だから。


だから、

音楽をやってる。


だったら。


一番大事な気持ちくらい、

音にしてもいいだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ