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家次さんと、  作者: 斗彫
4/6

いっしょ。

大口を開けて、それでも丸々一つ頬張ることが出来ない位、大きく重さの有るかりんとうを前歯で一口サイズに噛み切って、口の中もごもごと動かしながら、ホロリと割れて溶け出す黒糖と、揚げた生地の中に練り込まれていたゴマの風味をじっくりと味わう。そしてもう片方の手にした湯呑を持ち上げて、ぐいっ、と乾いた口の中に暖かい茶を迎え入れ、そのまま喉の奥へと流し込む。そしてホッと一つ息を吐けば、なんとも言えない充足感が腹の中に満たされて、一日の疲れが取れんとばかりに、じんわりとした温もりに心が満たされるのだ。


「お茶とかりんとうって本当に最強だよね~。これで煎茶っだったら至高だよね。」

「お前人が入れた茶に文句言っとんか・・・・、シバくぞ・・・・。」

「僕じゃなかったら学校に親から通報されちゃうよ。」

「ワシの菓子食うとってよう言うな・・・・、ちょ、と・・・・まて、・・・・・ッし!」


もぐもぐと口を動かしながら、次を食べる合間合間に家次へと声を掛ける。ひとりのんびりと自分のペースで味わいながら食す、そんな稔の傍らでは、一見フルーツナイフ程に見える通常の三徳包丁片手に、乾いた木製の小型のまな板の上静かに置かれた黒糖の板の表面に、ゆっくりと、それはもう慎重に、縦横等間隔に線のような溝を引いている。長方形のとうきびの塊を、自身の望む大きさに切り分けて専用の瓶に入れるのだ。均等な形にすれば、専用の瓶一杯に敷き詰める様に収めることが出来る、それが家次にとっての良いとうきびに対する最大限の敬意らしい。

大柄の見た目と言動の数々に、家次という人間は大雑把そうに見えて、その実意外と凝り性で、こと生活面に対しては几帳面な部分が大半を占める。朝起きて布団を畳み歯を磨いて飯を食う、そして一服したら布団を干して家中掃除機をかけて庭先を年季の入った箒で掃いて、一通り終わらせてからまた一服と、存外丁寧な暮らしをしていると言っても過言ではないのだ。


「ホントいつも必死だね、家次さん。それそんなに大切なの?」

「お前ッ、あったり前やろ!そんな・・・・ぁ、あア゛――――・・・・!」


だが何事も思ったようにいかないのが世の常だ。力の掛け方を誤れば、脆い砂糖の塊はポロリと歪にひび割れて、思ったようには割れてくれない。塊といえどその体積分布は均一ではない、精製時に必ず比重や結晶の偏りが出ることは当然であり、綺麗に割れる方がどちらかといえば珍しいのだ。


「・・・・・お前、がったがたやんけ・・・・。」

「思ったよりガッツリ割れたね、でも縦一列だから意外といけるんじゃないかな?」

「最後の一列やぞ・・・・・お前・・・・、もうちょっと、我慢せぇよ・・・・。」

「それは~・・・・、黒砂糖的には自分で割れたかったんじゃない?」


もうちょっと我慢しろだなんて物言わむ黒糖相手だ、言った所で仕方がない。上手く切れる時もあれば、基本的には割れるものなのだから、個体差があって当たり前なのだ。それにいつも同じ味でなければならないなんてつまらない、寧ろその時々に食べる黒糖の濃度の違いから生じる口どけや香りの違いにこそ、家次は愛着に近い何かを感じているのだから

ちぇっ、と唇を尖らせ、すねたようにしながらも割れた小さな破片の中から一つ、一口大のそれを持ち上げて、あと少しだったと家次は大変残念そうだ。稔は肩をすくめて慰めの言葉を掛けてみるが、仕上げの一列、最後の最後で決まらないというのは、少し残念な気持ちになるのも分からないではない。また次切る時に頑張ろう?そう励まして瓶を差し出す稔に、しょぼくれた顔はそのままに、こくりと頷き切れた黒糖を大人しく瓶の中へと入れていく家次は、最後まで残念で仕方がないとばかりに眉尻を下げて、不服そうな様子を隠そうとはしなかった。


「・・・・・しゃーない、入れれんことない。ここの先はワシが食べる。」

「え、僕にくれないの?」

「お前はこっちの小さいんや。今かりんとう食っとるやろ、贅沢なもんばっかり食うな。」

「確かに。・・・・イヤこれ家次さんのお菓子だから、そのまま自分に帰ってくるよ?」

「今週はしゃーないやろ、たまの贅沢や、ワシが黒砂糖好きなん知っとるやろ。」


せやろ?そう言って最後の最後、斜めに割れた大粒の砂糖を恨めしそうに見つめながら、稔に同意を求める家次のしょぼくれ顔に、食べればみんな一緒だよ、と返事を返そうとしたその時に、がらがらがら・・・・、と控えめに、玄関の引き戸が開いた音が耳に飛び込んできた。


「――――稔!籠ッ!!」

「ッ!!はいっ!全部入ってるから!!」

「・・・・せやね、お菓子は誰かに食べられてまうから、隠しとかんなならんわなぁ~・・・・・。」


急ぎ立ち上がって黒砂糖の入った瓶を両手に家の中へと駆け出した家次に、直ぐ背後から迫った気配と切羽詰まった掛け声に、稔は即座に傍らに置いていた籐の籠に腕を伸ばし、スササ…ッと畳の上を滑らせるように居間の奥目掛けて投げ込んだ。黒糖をキッチン横の調味料スペースに隠し入れ、直ぐさま縁側に戻っては包丁とまな板を確り握り踵を返す姿の何と早いこと。大きな体に似合わず最小限の音だけ立てて急ぎ今あったことの隠ぺい工作をしなければと思っているのに、こういう時に限って、まな板の上に乗った僅かな砂糖の欠片がもったいないと、片付けようとする手の動きを妨げるのだ。

どうする?いっそシンクに流してしまうか、いいややっぱり勿体ないと思う気持ちを捨てられない、走行している間にも小上がりを上がりとっ、とっ、とっ・・・・、つま先で床を蹴る軽い音に、玄関土間の暗がりから、ほっそりとした人影が光の中に現れる。艶やかな亜麻色の長い髪を一束ねにして肩に掛け、西日が少し眩しいと伏し目がちな目元には、まるでその輪郭を浮かび上がらせんと同じく黒く長い睫毛が影を作る程綺麗に生え揃っている。


「家次・・・・、お前はホンマに・・・・・。どないしょうもない子やねぇ~・・・・・。」

「こ、…んにちは、チカさん!」

「はいよ、みのる坊、こんにちは。今日もありがとうね、この子にかもてもろて。」

「いぃ、いいえ!いえいえそんなっ!お邪魔してます!!」

「いつでもお邪魔しとってええんやで?アンタはええ子やから、もうここ住んでてもええ。」

「そんなそんな・・・・、あ、お茶飲みますか?僕湯呑持ってきますよ?」

「大丈夫やで、もう先に水飲んできたから。用事だけ済ませたら帰るから。ねぇ、家次。」


ゆったりと弧を描いた口元に、くしゃりと目尻に皺を浮かべ、柔和な、本当に美しい微笑みを浮かべてそう言った人物の腕には、週に一度、このお菓子会議の際にのみ登場するハードカバーの【帳簿】が抱えられている。厚紙の表紙に紐止め式の紙を追加していくタイプのそれは年次毎の厚みはまちまちで、稔が知っていることといえば、この中に挟まれる紙の量が増えれば増える程、名前を呼ばれた当人、家次にとって不利になるということだ。


「じゃ・・・・、っじゃあ!かりんとう!かりんとう一緒に食べましょうっ!!?」

「ごめんな、今日は時間が無いんよ。さっさと済ましてしまわんなならんの、イヤやわ。」


必死の稔の誘いに目を伏せて、残念そうにため息を吐いた女は、それでも静かに稔の横へと腰を下ろすと、まだまだ小さいのに頑張らせてごめんな?と労わる様な言葉と共に稔の頭に手をやって、ぽんぽん、と軽く二度触れた。


「ほな早速で悪いけど、あの子が忘れてるその巾着、頂戴な。」

「はっ・・・・、のぉ~・・・・、まだ家次さんに言ってなくて、ですね・・・・・、」

「大丈夫やで?その袋も頂戴な。伝票そっちやろ?稔、・・・・ありがとうね。」


美人とは、如何せん罪作りな存在だ。それは顔だけの問題ではない、思考の有無にもよるだろうが、この場においての絶対的正義・決定権はいつだって【強者】の手に握られている。美しく聡い人間の浮かべる意味深な笑顔のなんともまあ恐ろしい事か、何故こんなにも逆らえないと思わせる力があるのだろうか。それともこちらに分が悪い、何故だか罪悪感を覚えさせる、弱みを握られている様な、そんな圧倒的不利な状況下に置かれていると錯覚させられてしまう。


「・・・・軽いな、全部つこうたんか。」

「わ、かんない、デス・・・・・。」

「家次―!早よ戻っといで!どうせ全部バレてんねんからどないしょうもないやろ!!」


終わらない戯言を一刀両断して、真正面から正論で捻じ伏せる、こういうものを鶴の一声、というのならば、今この場でその言葉が一番しっくりくる人物は、チカ以外に存在しないだろう。呼びかけられたが最後、不毛な争いはしないとばかりに本命の名を口にするチカは、もう既に帳簿を開いて臨戦態勢だ、逃げ道など残していてくれる掛けが無い。早く!!もう一度念を押す様に短く発せられた言葉に、居間の奥からバンッ!と大きく乾いた音が響いてきた。


「~~~っるさいなぁ!!なんでそんなん分かんねん!」


最後まで諦め切れなかった黒糖の破片を乗せたまな板を調理台に置いて、嫌々を隠す気も無い家次が、ドスドスと大きな足音を立てて縁側へと帰還する。急いでいたのだろう、最後まで抗いたかったのだろうが、家次というものは駆け引きその他が一切できない大変素直で不器用な性格をしている、要は気が短く言葉のやり取りが苦手なのだ。それをましてやチカ相手に出来る何ぞ、当の本人も思っても居ない。


「分かるに決まってるやろアンタみたいにわかり易い子そう居らんわ阿呆が!」

「そんなん俺よりも稔の方がわかり易いやろ!俺の方がアホみたいに言うて!!」

「何言うてんのこの子をアンタと一緒にせんといて、この子の方がずぅっと賢いわ。」

「そんなん分からんやろ!!俺の方が力も強いし年上やぞ!!」

「なんで僕のこと巻き込んでいくの!?」

「そんな年上ならちゃんとそれらしい振る舞いしてみぃ!口元に黒砂糖付けて、隠しながら食って、ホンマにみっともない。」

「さっき水道で洗ったから付いてないッ!!!・・・・、」


ハッとしてももう遅い、言われて素直に口元を拭い反論した家次に、稔とチカの視線が突き刺さる。


「~~~~姉やんッ!!」

「ヒヨリさんから家に伝票届いとんのんに、隠すも何もないやろ、阿呆。」


やからいつまでも子どもやねん、お前は。呆れたようにため息を吐いて床を叩き座る様に促すチカに、家次は何の反論もすることが出来ずにうめき声を上げながら腰を下ろす。言いたいことは分からないでもない、でも言い返せる言葉が無いことも稔は知っている。


「姉やんはひどい!!」

「子供みたいな癇癪持ちに言われたところで毛ほども痛無いわ。」

「んん゛~~~~~!!!!!」

「もう止めようよ家次さん、チカ姉さん伝票明細持ってるから・・・・。」

「ん゛ん゛~~~~ッ!~~んのババァ~~何で先に言わん~~ッ!!!」

「言うてもアンタが隠すからやろ、家計簿付けられへんアンタが悪い。」


一を言われたら十でも二十でも口の立つものであれば返すのだろうか、チカは決してそうではない。意地悪く相手の嫌がることをネチネチと繰り返し攻撃するような卑怯な真似事は絶対にしない。


「俺の金をなんで俺が好きに使ったらアカンのやッ!!!」

「自分で自分の財布の紐締められる様になってから言い、自己管理出来んの誰や!」

「~ッ俺の土地の稼ぎや!!なんで姉やんが口挟むんや!!」

「アンタ名義で運用はしてるけど、申請も帳簿もぜーんぶアタシに丸投げ。仲介の動産屋さんにお礼状の一つも出さん。節約すること知らんアンタに渡したらとっくに破産してるわ。」


一を言われたら、それ相応の重たい一を真正面から突き返す、それがチカの正攻法であり、わがまま放題の実弟である家次を唯一黙らせることの出来る、正真正銘の正論パンチである。


「なんでこんな年になっても弟のお金の管理せんとならんの?姉ちゃん恥ずかしいわ。」

「ん゛ああ゛~~~~ッ!!!!!!」


止めの一撃と言わんばかりに大きなため息を一つ、言い返す言葉を見つけられない家次は拳を握りわなわなとその身を震わせていたが、もう等の昔に頭は限界を迎えていたらしい。ダンッ!!と割れんばかりの音と共に拳を床に何度も振り下ろしながら、意地悪だ!イケズ!と負け惜しみの言葉を口にすることしか出来ていない。だがそれも仕方がないのだ、全て本当の事なのだから。


「家次さん今週そんなに使ったの?」

「ワシはつこてない!寧ろ普段よりも少ない!」

「せやね、少ないわな。黒砂糖は姉ちゃん先に払ろてるからねぇ。」

「・・・・・あ、そー、なんだぁ~・・・・。」

「嘘や!ワシ今週ちょっと多めに残しとった!!」

「アンタあの板一枚なんぼすると思う?それに先週小遣い渡して二日で結構つこたやろ?煙草もほぼ毎週2カートンそれとは別にお金出して、お菓子代残ってただけで奇跡や。」

「・・・・家次さん、おやつ代頑張ったんだね!?凄いよ!!」

「お!?おお、せやろ!ワシもちゃんと金残して「残ってない。」~姉やんッ!!」


それでも未だ諦めまいとする家次の最後の悪あがきに、稔も何とか助け船をとフォローに回ってみるものの、全ては相手の掌の上だ。これ以上の足掻きは無駄だとばかりに、話すそばから言葉の刃でばっさばっさと切り捨てられる。


「見苦しいからもう止めぇ。アンタは碌に嘘の一つも吐かれへんねんから・・・・・。」

「家次さん・・・・、ゴメン・・・・・。」


チカの放ったトドメの一撃と共に、ギュウ・・・・ッ、と喉を鳴らして押し黙った家次に、稔は味方になれなかったと、形だけだが謝罪の言葉を口にする。ほぼ毎週繰り返しているというのに、何故この大男は聡い姉を出し抜けないかと画策するのか、稔には未だに分からない。チカ曰く、もう子供じゃないと見栄を張っているそうだが、こうして毎週この姉弟喧嘩に立ち会う度に、稔の中で家次の精神年齢の幼さばかりに目が行って仕方がない。もう大人しく止めればいいのにとここ数年の付き合いだけでも思う程、家次の勝てる手はまず存在するのだろうかと思えるが、これを稔と出会うずっと前からこの二人は繰り返しているのだ、新参の稔が口を挟むことでもなければ、きっともうそう言う事ではないのだろう。多分きっとコミュニケーションの一環とか、まあなんだかそういうことなのだろう。


「ところで稔、ちょっとココ見てくれる?品名あってるか教えて?」

「あ。はい!・・・・、と、これ~・・・・、んと、・・・・、はい、合ってます。」

「ありがとうね、あの子先食べたら分からんくなる「そんなことない!」なるから。」


必死の抵抗空しく即撃沈させられた家次が、またダンダンと床に八つ当たりをする姿を横目に、チカは合ってるのなら良かったと、ニッコリと綺麗に唇に笑みを引いた。下がり口角が嫌だと言っていたがチカの称える微笑みは何処か上品で、寧ろその口角故に、小さく笑うその仕草には控えめな優しさや可愛らしさがある様に見える。


「・・・・・20円、なんか知ってる?」


ほんわりと、優しい笑みを浮かべたままの唇が紡いだ一言に、柔らかだった空気が一変、稔の背に緊張が走った。


「ッ!?――――知、ってまー・・・・、スン・・・・、」

「知ってんなぁ、んでアンタ持ってんなぁ?」


確信めいた、否、確信した声色に、一気に向けられた得物を捉えた強者の眼差しに、今度は稔の喉が、キュウ・・・・、と情けない音を立てる。逃げられない、このまま大人しく従うのがベストであると、確かに稔は分かってはいる、が、これは稔だけの問題ではない。寧ろこれこそが家次の一番の問題になりうることだと分かっているからこそ、稔はこのやり取りが早く終わることをずっと待ち望んでいたというのに。


「・・・・みのる?なんや、何しとんのや?」

「残念やけど当の本人忘れてるみたいやで?庇ったんのやめとき、無駄骨や。」


自分から矛先が反れ、敗北に沈んだ家次は、もう最初に言っていたことを忘れてしまっているらしい。チカの後で項垂れる姿に先程までの覇気は無く、叱られた後の子供よろしくしゅん、と俯き反省の姿勢を見せているだけで、稔の置かれた状況に全くの興味を示していない。一体誰の為に黙って早く話を終わらせようと思っているんだ!宥め役に徹していた稔からすれば、もう抵抗を諦めてしまった家次の姿の何とも情けない事この上なく、その状況を踏まえて言葉を掛けてくるチカという上位存在に、手も足も出るはずも無い。ごめんなさい、と一言添えてから、制服の片方のポケットに手を差し込んで、その中身を取り出して見せた。


「・・・・ぉお?おお!お前やったな稔!デカいのん引けたんか!!」

「うん、1個だけだけど・・・・、でも一番大きいヤツだったんだ!」

「お前凄いやんけぇ!!今週ついてんちゃうか!?コレぁええことあるなあ。」

「そっ、そうかなぁ?・・・・・やっぱり良い事あるって事かな!?」

「引き飴3回、それで20円な。一回分まけてくれてんな、これがええことやねぇ。」

「「・・・・・・・・・・・・・・」」


一瞬の盛り上がりをピシャリと止めた柔らかくも芯のある声が、家次と稔の間に水を差す。そして静まり返った空間に、サラサラと紙の上をペンが走る音が少しして、そしてそれから直ぐにパタン、と、固い表紙が閉じる音がした。


「・・・・なんでそんなひどい事言うんや!今めっちゃ盛り上がっとったやろッ!!」

「アンタ自分でお金つけれるようになってから言い、財布の中合わせたってんのに。それよりも分かってんの?アンタ、アタシからちょろまかそうとしとってんで?反省は?」

「・・・・・にッ、20円位分からんくなる事ある!!」

「アンタは細かい子や、出かける時に金財布に入れて、帰ってきたら巾着に戻す。絶対に1円だって失くさん子や、失くしたら直ぐに合えへんって言うてくるからな。」

「家次さん、几帳面だから・・・・、僕隠せないよぉ~・・・・。」


家次の変に几帳面な部分が仇となった。反論してすぐに叩き落とされた言葉に、稔ももう擁護の仕様が無いと、言われたままに戦利品の糸引き飴を入れた袋をチカへと差し出した。イチゴが2つに、水色に色付けられた歪で丸い大きな塊が1つ、ビニール袋の中で太陽の光に照らされて、表面に付けられた砂糖の粒をキラキラと光輝かせている。


「どれでもええわ、家次、姉ちゃんにも1個頂戴。」

「なんでや!ワシの小遣いから出してん「黒糖いくらやと思う?」・・・・じゃんけんや。」


稔から渡された袋を片手に、ニッコリと微笑みを浮かべたチカに、家次は反論を止めて即勝負へと切り替えた。くだらないお菓子、しかも高々一つ10円の飴程度の事で何をそんなに必死になる事があるのかと、一般的にはあり得ないほどの低次元の争いだが、体の主成分が砂糖で出来ている家次にとって、これもまた単なる飴玉一つの話ではない。明日からの一週間のモチベーション、気持ちを決める、それはもう大変な事柄なのだ。即座に自分の不利を悟っての家次の行動は十分に英断だと言える。


「ええんか?じゃんけん弱いんに。」

「ここぞという時の俺は、ちゃんと強い・・・・!」


飴を掛けた真剣勝負、勝つも負けるも恨みっこなしの一本勝負。

床に胡坐を組んだまま、左腕を上げた家次に、仕方ないとチカが軽く右手を持ち上げた。


「じゃ~ん、け~ん、ぽん。・・・・・おおきにな。」

「―――――――ッなんでや~~~!!!!!」


細い指先が1つ糸を引っ張ると、袋の中からスルスルと大人しく、一番大きな明けが引き出された。その飴から伸びる糸を片手の指に引っ掛けて、帳簿を胸元に抱えたチカが、すくり、と音も無く立ち上がる満足そうに眼を細め、床の上蹲る大きな子供の背に思うことは何も無いらしい。


「稔、おつかいありがとうね。コレ今週分のお金入れてるから。」

「はい、ちゃんと言っときます・・・・・。」

「アンタも気にせず食べや?アンタが引いたんや、それにアタシが良え言うたんやから。」


今日何度目になるかも分からない、俯き床に八つ当たりをする家次の頭の上に巾着を乗せ、稔に視線を流したチカは稔に飴の入った袋を返してそう言って、さっさと玄関へと踵を返していってしまった。置いてきぼりを食らった家次は、もう暫くは顔を上げないだろうと、その姿の惨めさを強調してまう巾着をそっと頭の上から除けながら、稔は返された袋の中、いつもの光景に戻ってしまったイチゴが二つ残された、スコン、となんだか寂しい見た目の隙間だらけのビニール袋に視線を落とした。確かに勝った筈なのに見当たらない今日一番の戦利品に思わず口から溜め息を止める手段が見当たらない稔を尻目に一人、意気揚々と去っていく勝者の背中は喜色に満ちて、玄関の扉が開いて閉まるその時まで、とても優雅で楽し気な鼻歌を響かせて、そして颯爽と消えていった。


「家次さん、なんで負ける掛けするの?僕の運チカ姉さんが持ってっちゃたじゃん。」

「うるさい、ワシかて勝てる予定やったんや。・・・・・飴食うか。」

「うん、食べる・・・・。」


縁側に二人腰かけて、ザリザりとした表面を少し歯で削りながら、口の中で小さな飴を転がして。いつもと変わらない飴玉を、同じくいつもと変わらない男と口に銜えたまま、くだらなくも少し浮ついてしまう、そんな勝負の世界の厳しい現実に、思わず言葉が口から出渋ってしまう。


「あー、また引けるかなぁー・・・・。」

「引けるかちゃう、引くんや。そんでワシがそれ食うんや。」

「くれないんだ、勝手だー・・・・。」


フンっ!と鼻息一つ、ぶつくされた顔のまま未だに大きな飴への未練たらたらな家次の様子に、それでも引いてきた自分にはくれはしないんだという勝手な言葉に、稔も思わず不平を漏らすも、生意気だぞと、チョン、と頭を指で突かれる。


「・・・・・家次さん、咬んだらすぐなくなっちゃうじゃん。」

「阿呆、こんな小さいもん、咬むためにあるんや。」


パキッ、ガリガリ・・・・、と音を立てて奥歯で噛み砕かれた飴だったものについていた紐を、最初に入っていた袋の中に押し込んで、ごみ入れにした家次に、稔は未だカラカラと、口の中溶けていく飴を味わっている最中だ。茶を飲んで、今度は食べ掛けだったかりんとうの袋を鷲掴み、長い指でひょいと、大きな筈の一本を摘み上げ、口に運び始めている。


自分勝手で人使いが荒く、駄々をこねて笑って怒って騒いで沈んで。未だにその生態は曖昧で、お姉さんには敵わない、なんだかよくよく分からない、子供みたいな大きな大人。そんな家次と出会い友となった稔が、よくありそうでそうでもない、何でもない日常を過ごす、なんでもないお話しである。



長々お付き合いありがとうございます。

こんな感じでのんびりと、おっきいのとちっさいのがのびのびしているのを投稿していきたいなぁ〜とおもっております。

お目に止めて頂けましたら幸いです。

また後日にでもお姉さんの設定とか、なんかかければなぁ〜と思います。

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