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家次さんと、  作者: 斗彫
3/3

おかし会議。

1話の最後のつもりでした。おわりませんでした。

終わりの無いのんびりのびのびなので、のんびり流してお付き合いいただけますと幸いです。


1話終わるつもりだったんです、…スミマセン。

森のような裏道を抜けた稔は、せかせかと忙しく動き出した家次にまるで共鳴する様に足元の凸凹とした踏み慣らされただけの地面に気を付けながら、目の前の建家に歩を進める。南向きの広々とした縁側に、広々とした庭先には一部金属の切断面が剥き出しのお手製の遊具が数個、池があったたと教えてくれた場所に雑多に鎮座させられている。その縁側に直接向かうのが一番早いのだろうが、稔が向かうのはその右側にある、れっきとした玄関口だ。

家の内と外の区分は必ずつけなければならない、それは稔が初めて家次の家に招かれた時の事。正面からでも、裏口からでも、家主の許可があって敷地に入ることを許可はするが、内と外の区分はしっかりと分けなければならない、それは昔からの決まり事で、でなければ演技が悪いのだ、と、なんだか薄ぼんやりとだが提示された守らなければならないルールと云うものが存在するらしい。もしそれを破るとどうなるのかと問えば、なんだが気持ちが悪いからするなという、答えになっている様な、なっていない返答に、稔はただ確かに人様の家のルールを守ることが当然かと、家主がそうだというのであればそうするまでと言われるままに実行していたが、こればかりは本当に気持ちの【区切り】をつけるためにする行為なのだろうと、それから数年経った今更ながらに思い至る。家は内と外の境を作り、その境界線の線引きをしている。守られる、安心できる、気を緩められる内と、自分だけではない、他者との関係が必ず発生する、常識を持って行動する、数多の感情の交わりの生じる外。その区切りをつけて、自分自身をリセットする、そういうことだったのかもしれない。だからそれが曖昧なままの状態で縁側から母屋に入る事や、逆の行動もまた然り、境界が曖昧になる事を嫌っているのかもしれない。それか普通に行儀の悪い、常識の範囲でもってしても喜ばしくない理由が調べればきっと出てくるのだろうが、稔にとっては家次がそう言っていたという理由だけで、その説明は十分なものだった。


「おじゃまします!」


雨よけの瓦の付いた屋根の下、ガラガラと音を立てる引き戸を開いて中へと上がる。玄関先の土間で靴を脱ぎ、備え付けの靴箱の、いつの間にかなっていた定位置にそっと自分の靴をお邪魔する。そしてその脇に置かれている自分用のサンダルを今度は指先で引っ掛ける様に持ち上げて、稔はよいしょ、と小さく声を発しながら、少し高めの小上がりを昇る。そして手にはおつかい袋と巾着を片手に、もう片方にサンダルといった風に、食べ物と一緒にしない様にと気を付けながら、小走りに目と鼻の先にある縁側へと歩を進めた。


「家次さーん!お菓子ココ置くよー!」

「おう、手洗ってこい!もう茶入れるぞ。」

「うん、ありがとう。借りまーす!」

「おう。」


互いに一切振り向かず声だけを掛け合って、いつも通りの掛け合いをする。稔は一先ず菓子を置き、洗面台に行って手洗いうがいを、その間に家次が茶を入れて縁側まで茶瓶を運ぶ。そして縁側に二人がそろったその時に、今週一週間の家次の家次のためによる【おやつの時間大采配】を開催することになるのだ。家の奥、風呂場の外にある洗面台で常設された泡石鹸で手を洗い、同じくプラコップにうがい薬をワンプッシュ。手短に済ませてはいけないいつものルーティーンの後、手を拭くものとは別の、壁にフックで吊るされている布巾で洗面台に飛んでしまった水気をサッと拭き取って、最後に何か抜けが無いかと指さし確認をし、稔は直ぐに踵を返す。洗面台を出て直ぐに光の差す方へと顔を向ければ、煌々と照らされた縁側にゆったりと腰を下ろし、ただ静かに待っている、大岩の様に広く少し丸まった背中がそこにあった。


「お待たせ家次さん、ちゃんと片付けもしてきたよ!」

「おう、分かった。それよりも早う!やるぞ!」

「分かってるよ~、家次さんのなんだし、気になるなら先に見てても良いのに。」

「阿呆!こんなんはなぁ、一緒に見るから楽しいんやろが。」


小走りに駆け寄りながら声を掛ける稔に、家次は半身を返して返事をしながら、だらしなく胡坐を組み直しながら、袋が置かれた場所へと視線を向ける。家次と茶碗の乗ったお盆を挟んで反対側、今は入れたての茶瓶も増えた横に置かれている今日の戦利品報告にワクワクが止まらない様子で、お前も早くそこへ座れと、急かす程に床を叩く音がまるで踊っているように耳を打つ。


「今日の袋、すんごい重たかったんだよ!もう帰ってくるまでに底が抜けるんじゃないかと思ったよ。」

「ホンマか!?まあ袋パンパンやけど、あのババア久々にええもん入れてんのんか!」


ぱっと華やいだ表情を浮かべる家次を横目に、稔は自分の為に開けられていた何時もの定位置へと腰を下ろす。自分よりもずっと年上の筈の大男が、菓子の内容に胸を躍らせている様子は何度見てもなんだか様変わりの様でいて、純粋に喜んでいる姿というものは、年齢何ぞ関係なく、誰だって可愛らしく見えるらしい。


「家次さん喜ぶと思うよ?それに、たまには自分で来いって。今日の重かったし。」

「・・・・イヤや。ババアと喋ると喧嘩んなる。ワシは好かん。」

「勝手だー。」


ワクワク顔から一変、口を紡いで膨れっ面で口の中でもごもごとバツが悪そうに唇を尖らせて言い訳を並べる大男に、稔の口から思わず言葉が漏れ出した。


「行かん方がええんや!あのババアすぐ人の事馬鹿にしよる…口が悪いんや!」

「家次さんだって人の事言えないよ?僕の事パシってんだから。」

「お前はええんや!お前は!走るぐらいしといた方がこれからデカなる!」

「それどんな理由付け!?・・・・・まぁ大きくは、なりたいけど、」

「せやろ、お前は足がデカいから背も伸びる。ちょっと走っとった方がええんや。」

「イヤ絶対目的違うでしょ、都合よく使おうとしてる人の言い分じゃん。」


なんだかそれっほい理由付けをして話を逸らそうとする家次に、稔は訝し気な視線を投げかけてはみたが、もう家次はこれ以上話を続けるつもりは無いらしい。煩わしいと言わんばかりにもういい!と口で言いながら、自らの顔の前で大きな手を左右に素早く二度ほど振って無理やり話を終わらせて、その手でそのまま自らの膝をパンッ!と打って、話を元の道筋へと力技で方向転換をさせた。


「それよりも!早よワシに!中身見せろ!!」


目の前の大男の胸が大きく膨らんだのを見て、稔が耳を塞ぐと同時に、全身がビリビリと震えそうになる程の大声を真正面から受け止める。耳を塞いでいなければ耳鳴りを起こしてしまう程の大声だが、稔はもう慣れっこだ。それよりもこの状態になってしまった家次は、稔ではもう全く手に負えない、駄々っ子全開の自分ルール発動状態だ。膨れっ面で早く菓子を寄越せと怒鳴る自分よりも数十と年上の男の、なんともまあ情けない事か。昔はこの町随一の色男だという噂があったそうだが、稔はその色男振りを、家次と出会った当初から一切その目で見たためしがない、寧ろ嘘だったのではないかとさえ思っている。駄々を止める様子は一切なくこれ以上の会話は無理だと判断した稔は、家次の望むようにするしかないと、目の前の袋へ手を伸ばすのだった。



*



「・・・・じゃあまず上からね。生姜煎餅に、絹巻、炭酸煎餅、たまごボーロ、かりんとう、フルーツ寒天、どら焼きと、甘食。」

「甘いな、しょっぱいんは?」

「あるよ~。海老満月と、おしゃぶり昆布。それから烏賊の酢漬けと・・・・カリカリ梅!」

「ほう・・・・、結構カラいな。甘いもんは?」

「さっきの甘いヤツだよ家次さん。あとはいつもの、はい!」

「おう!コレや!やっぱしコレが一番ええ。」


喜色満面、縁側に広げられる様々な菓子を尻目に、家次は稔が差し出した袋に一目散に手を伸ばす。稔が両手で持ち上げたものを、家次は軽々片手で受け取るや否や、もう片方の空いた手で傍に置いていた空き瓶を引き寄せると同時に、慣れた手つきで袋から中身を入れ替えた。カラン、カラカラカラ・・・・、と乾いた音を立てながら小さな砂糖の塊がガラス瓶の中注がれていく姿は、さながら星の砂の様だ。


「やっぱしこれがワシの電池やな・・・・。ええわ・・・・・。」

「家次さんってよく病気にならないね。」

「ワシは昔から元気なんや。元気なんはな、ずっとこれ食っとるからや。」

「……そっか、そうだね、家次さんだもんね。」

「せやで・・・・。やっぱし何言うてもコレがいっちゃん美味いんや。」


ウンウンと一人満足気に頷く姿に、稔は年々家次の持つ瓶の中身に若干の危険性を感じる様になってきていた。お気に入りのそのお菓子専用のガラス瓶は、家次が子供のころからずっと持っていたものらしく、大体米で言う所の5合分は入るらしい。


「本当にすごい量だよね、金平糖。減らさないの?」

「お前は電池減らしたら生きていけるんか?ワシは無理や。」

「そうだよね、無理だよね。」

「やっぱりなんや言うてもコレに限る。美味いもんは美味いな。」


満足気にそう言って決して小さくは無い砂糖で出来た一かけらを指先でちょいと摘み上げ口の中へと投げ込んだ家次は、ゆっくりと味わう様に一粒を口の中で転がしては、周りにある突起をカリ、と軽く乾いた音を立てて噛み砕き、またゆっくりと味わうを繰り返す。そして大切そうにブリキで出来た蓋を確りと捻じ込み封をすると、ぎゅっと、その瓶を胸元に抱えて満足そうに微笑むのだ。

家次が食べているのは一般的にいわれる金平糖とは少し違うらしく、一般的に認知されている物よりも一回りは大きい直径が約1センチはあるだろう、『大粒』といわれる案外店先に出回ることの少ない、それは特別なものらしい。しかも着色料は勿論の事、香料等のその他添加物といわれるものも一切入れられていない、純・金平糖なのだそうだ。稔も家次と出会い、毎週のようにそれを見るまでは存在も知らなかったし、そもそも金平糖の違いなんて気にしたことも無かったが、言われてみて初めて意識してみて気が付いたが、そもそも金平糖自体スーパー等でも通年で販売がされていない。寧ろ取り扱っている店舗の存在自体が稀であり、在ったら珍しいと思うだろうが、更にそこから種類を選別していくなんてそもそも考えた事も無い。そんな貴重なものを瓶にすり切り一杯、溢れるギリギリ一歩手前までを量り売りしてくれているヒヨリ婆さんのような人は探してもそうは見つからない、大変稀有で家次にとっては有難いだろう。だというのに何故そんな貴重な、自分の生活に直結する食糧物資ルートの要のような人にも関わらず、感謝の言葉こそあれど一々文句を口に出せようものなのか、なんだか釈然とせず、稔は未だに理解するには難しい。


「美味い。金平糖は白いから金平糖なんや。美味い。」

「良かったね、家次さん。」

「おう・・・・んまいなぁ~・・・・。」


満足そうにそう言って、大きな体をゆらゆら左右に揺らしながら、何処か鼻歌交じりにご満悦といわんばかりの様子の家次に、稔はもう何も言うことは無い。先週もあった筈の一瓶分はどうしたの?なんて、数年の付き合いのある相手だ、言うわけも無い。一体どうやったらここに並べている大量の菓子を一週間もしないうちに無くすことが出来るのかなんて、そんなこと聞くまでも無い、答えは一つ、間違いなく確かに一人で食べているのだから。


「家次さん、僕にも金平糖いっこちょ「アカン」そうだよねぇ~。」


もごもごと口を動かしながら、目の前に広げられた菓子の中から、指先でひょいと摘まんだ袋を無言で二つ差し出される。かりんとうと、フルーツ寒天の二種類だ。


「・・・・かりんとうにしようかな?お茶貰ってもいい?」

「ええぞ、俺もそれ一緒に食う。袋開けろ。」

「やったー!あ、そうだ。忘れてた。・・・・家次さーん?」

「ん~?茶は番茶やぞ~?・・・・・んん??」


家次は大の甘党で、その上味の好みが複雑で、その上で気に入った物だけが、好物リストに名を連ねることを許されている。そんな大層面倒くさい男のお口に召した菓子の内の一品が、不味いなんてことはありもしない。分厚く味わい深い濃厚な黒糖が良く絡んだかりんとうは、稔が口にしたものの中でも群を抜いて美味いと感じさせられたものだ。このかりんとうを口にしてからというもの、もう他のかりんとうでは禄に美味いと口に出来なくなった程、口にした者を虜にする旨味を持つ力が桁違いなのだ。他に比べて頭を5つは抜いている。それを選抜してくれるとは、家次も中々に稔の働きを評価してくれているのだろうと、パシられているのを良い様に考えながらふと、袋の中に残されている今週一番の大立役の尊大を思い出し、茶を湯呑に注ぐ家次が茶瓶を盆の上へと下ろすのを待ってから、ここぞとばかりに顔の横へと大きな一枚岩を取り出した。


「・・・・・じゃん!デカ黒糖――――!!!!!」

「ぉぉ・・・・、ぉおおおおおーーーー!!!!ババアーーーー!!!!!」

「家次さんそれもう悪口だよ。・・・・・はい!美味しいのだって!!」

「知っとるわそんなこと!おまっ、お前っ!早よ出さんか阿呆が!!」

「もうこのまま床に叩きつけて割るよ!どんだけ重かったと思ってんの家次さん!!」


わなわなと、それはもうわなわなと全身を震わせて大口を開けて叫ばれた言葉は、決して暴言のそれでは無く、寧ろ一人の人物に対する感謝の意を表しているのだろう。稔の身体もびりびりと震えるほどの大絶叫は、この丸々一枚に仕上げられた黒糖に対する家次の好感そのものだ。思わず震えるほどの大絶叫に大興奮。砂糖好きには堪らない香り豊かな極上の一品、そう半年前に教えられた家次の大好物である。


「とりあえずそこ置け!~~っまて!ちょっと瓶探してくる!!」

「封してあるから大丈夫だって!それよりも僕早くかりんとうが食べたいよ。」

「何言っとんねん!先に瓶やろが!あ~、あと缶も何個か・・・・、籠もか!!」

「お茶先頂きまぁーす。」


縮めていた体をぐんと伸ばし勢い良く立ち上がった家次は、数か月ぶりの想い砂糖との相対に、急げ急げと家の中へと駆け込んでいく。そしすぐに聞こえるドッタン!バッタン!と力任せに開いては閉じてをされる食器棚や台所収納スペースの扉の開閉音という名の悲鳴の声に耳を傾けながら、稔はふぅー・・・、と湯呑から立ち上がる湯気を一度軽く吹いてから、つるりとした白磁の表面に口を付けた。


「・・・・・、うまぁ~・・・・。」


程よい苦みと、程よい酸味に、鼻先に抜ける茶葉の香りがなんとも心を落ち着ける。伊達に家でゴロゴロしているわけだは無い、家次の入れる茶は、どんな種類の物であってもきっちりと旨味を引き出されていて飲み心地がとても良いのだ。


「稔!ワシの黒砂糖用の瓶何処やと思う!?」

「ん~・・・・、多分鍋のトコの奥の方とかはー?」

「!!そうや!思い出した!棚の上の奥や!!」

「全然違うじゃん。」


そう言って消え掛けに、畳の上を滑る様にして姿を現したのは、それはもう見慣れた家次曰くエエもんの籐の籠だ。本来であれば衣類の脱衣時や、収納時だったり使われるようなそこそこ大きなものであるが、この家の中ではそれをはるか超えて、お菓子専用のバスケットとして愛用されている。


「割れモン上にせえよ!割れるからな!!」

「分かってるよー!」


家の中から人に仕事を押し付けおきながら、一体何という物言いをするのか。炭酸煎餅を下の方に入れておいてやろうかと、一瞬頭をそんな考えが過ぎった稔であったが、フンッ!という掛け声と共に割れたか割れていないのか、判断の付かない乾いた衝突音が木霊し耳に届いたので、それもすぐにやめることにした。



家次さんは、引く程の甘党で、大体知らない砂糖菓子をちらつかせれば、玄関を少し位なら開けてくれます。

肩が張り骨太な骨格で胸が厚く、喋り声が基本叫び声なので、怒鳴っているように聞こえるという特性があり、声もよく響くので関わりが無い人達には見た目の強面、ガタイの良さ、声の大きさで結構怖がられている。のを本人は普通ないし抑えているつもりなので結構傷付いている。


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