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第一話 破損

世界がおかしいと気づいたのは、突然の爆発でも怪獣の出現でもない。

......もっと静かで、小さな違和感だった。


大学の量子実験棟。

俺はいつものように、観測データの整理をしていた。


だが今日は、コンピュータの画面に’’見慣れないログ’’が混ざっていた。


【Observer Sync......完了】

【観測値:C-112、安定】


「......いや、うちの実験、observerなんて名前つかってないんだけど」


仲間の誰も触っていない。

教授も知らない。

謎のログは毎秒、少しずつ増えていく。


最初の違和感は、ここだった。



その日以降、奇妙なことが重なった。


視界の隅に一瞬のノイズ

耳鳴りのような何かのささやき

夢の中で誰かに後ろから見られている感覚

量子データに現れる「C-112」という謎の項目


何よりーー


「C-112」

それは、俺の学生番号の末尾と一致していた。


偶然......?

いや、偶然にしては気味が悪すぎる。



違和感はだんだんと大きくなる。

授業中、黒板を見つめていると、

ほんの一瞬ーー


黒板の’’奥’’まで透けて見えた。


まるで、世界そのものが’’薄い膜’’でできているかのように。


(......おかしい。俺の目か?)


瞬きをすると戻る。

だが、その透けた一瞬の向こうに’’何かが動いた’’気がした。


誰かが覗いていたーー

そんな感覚。



決定打だったのは、夜の研究室で一人残って作業していた時。

PCの画面が突然、真っ黒になった。


そして。


【C-112ーー視認反応を確認】


おかしい。

これ、うちのシステムじゃない。

研究室にも、大学にも、こんなプログラムは存在しない。


「......視認? 反応? 俺を......何が?」


震える手でログを追う。

そこには続きがあった。


【観測対象:C-112】

【状態:安定】

【継続観測中】


その瞬間理解する。


これは実験のログじゃない。

俺が触ったシステムの記録でもない。


これはーー


俺自身のログだ。


誰かが、何かが。

何年も前から俺の行動、視線、思考を’’観測’’していた。


理解ではない。

直感で分かった。


(......俺は、観られている)


背後から鳥肌のような冷気が走る。


ゆっくりと振り返る。


暗い研究室。

誰もいないはずのそこにーー


’’視線’’だけがあった。


形も、輪郭もない。

ただ確かに、そこに存在し、俺を見ていた。


瞬きをした。

視線は消えた。


しかし、モニターのログだけが言い続けていた。


【継続観察中】

【継続観察中】

【継続観察中】


心臓がゆっくりと冷えていく。


(......何のために?誰が、何を観測している?俺は一体......)


その答えを知るのはもう少し後のことだ。


異世界も、観測者も、

まだこの時点では影も形も見せていない。


だがこの夜、俺の’’運命の実験’’は始まってしまったのだ。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。初投稿です。面白ければ評価、感想をいただけたら嬉しいです。

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