ナオキとのお見合い
銀行員をしているというナオキは、歩美の職業について聞いてきた。歩美は、
「はい、県内の高校で教師をしています。」
と答えた。さらにナオキは、
「何を教えてらっしゃるんですか?」
と質問を続けた。歩美はプロフィールに高校で教師をしていることは書いていたが、教科までは書いていなかった。
「国語を教えています。」
と答えた。するとナオキは、
「そうなんですね、実は僕も大学生の時に教職を取っていました。」
と言った。歩美は少し意外に感じたので、
「そうですか。」
と返事した後、「どうして、教師にならなかったんですか?」
と聞いてみた。歩美は聞いてから、ちょっとまずかったなと思った。教師にならなかった理由なんて、ネガティブなことだろうし、ナオキさんもそんなの言いたくないだろうなと思ったからだ。
しかし、ナオキは
「そうですね~、自分は経済学部で、就活の時に銀行とか保険会社がいいなと思ったんです。」
と答えた。歩美は、
「そうだったんですね。」
と相槌を打った。まあ、「他の仕事が魅力だった」と言うなら仕方ないわねと思っていたが、ナオキは、
「ただ、教職は一応取っておこうかと思いまして。」
と余計なことを言った。
一応?!
なにそれ?まあたしかに「一応教職も取っておくか」という意識の人は大学で何人もいたけど、それを本物の教師の前で言う?それも初対面なのに?!
歩美は不快感を覚えたが、さすがにそれを口にはしなかった。
「まあ、そういう人もいますよね。」
歩美はさらに相槌を打ったが、ナオキは続けて、
「でも、実際に銀行員やって10年くらい経ちますが、教師になっておいてもよかったかなあと思います。」
とまたも余計なことを言った。
なんなの、この人は?「なっておいてもよかったかなあ」って、ふざけないで!他人の仕事を何だと思ってるの?
歩美の感情は不快感から怒りに変わった。
その後もナオキと40分くらい話したが、どうもナオキはあっけらかんとしていて、歩美の感情を傷つけたとは思ってないらしい。おそらく悪気はないのだろうが、最初の段階で歩美は拒否反応を示していたので、あまり話に身が入らなかった。
「それでは、今日はありがとうございました!」
お見合いが終わって別れ際に、ナオキは爽やかな挨拶をした。歩美は正直言って「これで解放される」と思い、
「こちらこそ、ありがとうございました。」
とお辞儀をした。これで終わりだと歩美が安堵していると、ナオキは、
「また、お会いできるといいですね。」
と笑顔で言ってきた。
歩美は顔をこわばらせたのが自分でも分かったが、
「そう・・・、ですね。」
と作り笑いを見せてその場を後にした。




