第9話
エボールが伯爵まで臣籍降下することが決まって数日後、国王からエボールにユトピアが婚約したと伝えられた。驚くことにその相手は隣国の王子だという。エボールは知ったその日に国王に問いただそうとした。
「父上! ユトピアが隣国の王子と婚約したというのはどういうことですか!?」
「何を言っているのだ? ユトピア嬢は仮にも公爵令嬢だ。婚約の申込みはいくらでもあるだろう。その中に隣国の王子がいただけのことだ」
「だ、だからといって早すぎます! 私と婚約解消したばかりなのに、よく知らない隣国の王子と婚約? 聡明な彼女にしては動きが早すぎます!」
エボールが落ち着きのない様子で喚く。エボールとしては婚約解消しただけで王太子じゃなくなるとは思ってもいなかったのだ。だからこそ、サキュラと深く関係を持ったことに今更ながら後悔していた。挙げ句には、伯爵にまで臣籍降下するとなると受け入れがたいとしてユトピアに助けを求めていたのだ。
「ユトピアは私のことはもうどうでもいいというのですか!? 彼女なら私を助けてくれると……」
「お前は何を言ってる?」
しかし、ユトピアと接触する機会は無かった。いや、与えられなかったとも言えるだろう。手紙を送っても「無理です」と伝えられるだけだった。そして、そのユトピアは隣国の王子に嫁ぐと聞かされる。頼みの綱が無くなったエボールが国王の眼の前で騒ぐのは当然かも知れない。
「はぁ、お前はユトピア嬢なら助けてくれると思ったのか? 王太子に戻してくれる手助けでもしてくれるなどと都合のいいことを考えていたのか?」
「う……それは……当然だと……」
「そんなわけあるまい。ユトピア嬢がお前と婚約していた頃の後半あたりでお前の廃嫡の声が上がっていたんだぞ?」
「そ、そんな……サキュラのことは、」
「サキュラ嬢のことだけではない。馬鹿者め。学園に入るのを機に勉学を怠け遊び呆けることに重きを置くようになった時点で王太子失格ではあったのだ。そういう意味ではユトピア嬢には悪いことをした。彼女の方から先に婚約解消に動くものだからな。我らにも反省点はある」
「……」
エボールはもうユトピアのことで何もいえない。もう彼女がいても自分の状況が変わらないと悟ったのだ。確かにエボールは都合のいいことしか考えていなかった。あわよくばユトピアともう一度婚約できればと思っていたが、国王の言葉と彼女との最後にあって話した会話を思い出すと無理だったと今気づいた。自身の浅ましい頭に恥ずかしくて仕方がない。
「……父上、せめてこれだけはお聞かせください」
「何だ?」
「隣国の王子――ロドバ・ロン・グレートアイズ。その男とユトピアに接点はあったのですか?」
「あるぞ。そもそも、お前ともあっただろう?」
「え? そうだったのですか? まったく記憶にないのですが……?」
国王に自身にも接点があると言われても身に覚えがない。困惑するエボールに国王は種明かしした。
「お前たちとユトピア嬢にはカート・クモン子爵令息と名乗っていたがな」
「……は?」
エボールは何を言われたのか分からなかった。




