第8話
「エボール様が王太子に戻ることはないわ。処遇が決まれば貴女との婚約はお父様は許可してくださるでしょう。もっとも、王太子じゃなくなったエボール様はサキュラと婚約したいかしらね。原因そのものだもの」
「そんな言い方……臣籍降下って言っても公爵くらいなんでしょ!?」
「エボール様のこれまでのふるまいからして良くても伯爵くらいだと思うけど?」
「は、伯爵……」
サキュラの顔が今度は青くなった。王太子の座を欲していたのにこれでは無駄じゃないか、そんな思いが頭を占めたのだ。そして、今後の自分の未来に明るいものが見えなくなった。
「あら、王太子じゃないエボール様ではサキュラも困るのね。でも肝心の貴女のことを大事に思ってくれる殿方はエボール様を入れても三人もいるからいいじゃない」
「義兄様とデケイド様のこと……? あの二人のことは困ってるのよ……」
「あら、どうして?」
グレムもデケイドもサキュラのことを好いている男たちだったはずだ。公爵令息と騎士団長の息子。相当いい立場の二人に好かれて困るというのはどういうことか。ユトピアが困惑した顔をするとサキュラはムキになって語りだした。
「義兄様は最近になって「僕は君を甘やかしすぎた。真の兄とは時に厳しくなくてはならない。君に対する間違った感情を断ち切る!」とか言い出して優しくなくなったの! エボール様の臣籍降下を阻止してほしいと頼んでも無理だとか君も反省しろとか言うの!」
「まぁ、グレムもやっと目が覚めたのね」
「何が目が覚めたよ! デケイド様は前からしつこく近づいてきてたけど、エボール様が婚約解消してから更に迫ってくるのよ! あの筋肉バカが!」
「まぁ、言葉遣いがなってないわよ」
「うるさい!」
サキュラはついに怒りに任せて怒鳴り始めた。ただ、ユトピアはそんな義妹に臆することなく淡々と聞き続ける。
「義兄様は甘やかしてくれるから見た目が頼りなさそうでも頼ってあげたのに! デケイド様は力だけの能無しだけど褒めてやったら暑苦しいし……」
サキュラの声が弱々しくなっていく。どうやら言葉にしていくにつれて自分の状況が悪くなったことを自覚していったようだ。そして、そんな自分に頼れる相手が少ないことも。
「貴女が招いたことよ。もう分かっているでしょう?」
「うう……私はどうすればいいの?」
「そんなこと自分で決めなさい。ただ、次の王太子になられる第二王子殿下に近づいても無駄だと思いなさい。エボール殿下のことで王家も反省しているのだから」
エボールが廃嫡となったことで、王太子は第二王子のブラッド・ティー・キョリュグリドになった。ブラッドは十歳ほど年下の弟なので、ユトピアもサキュラも婚約者候補に入ることはない。もっとも、年齢が近くてもサキュラだけは除外されることは間違いない。
「私は、」
「王妃にはなれないわよ。年の差以上に貴女に問題があるんだから。誰と婚約するかはお父様と相談して決めることね」
「……分かったわよ」
サキュラは恨めしげな顔でユトピアを睨みながら去っていった。面倒な義妹が部屋から出ていったことを確認してからユトピアは呟いた。
「……もしも、あの子が私の次の婚約者が隣国の王子と知ったら騒ぎ出すわよね? お父様と相談して発表するのをギリギリまで後にすることにしておいてよかった」
ユトピアの脳裏にはカートの告白の日が浮かんでいた。
「まさかカート様が……いいえ、ロドバ殿下が……――」




