第5話
「グレム? どうしたの大きな声なんか出して?」
「いくら相手が姉君でも紳士として格好が悪いぞ?」
「姉上、カート……殿下と婚約破棄されたというのは本当なのですか!?」
「ええ。エボール殿下とは価値観が合わないから互いに了承し合って婚約を解消したの」
「な、なんてことをしてくれたんですか!」
「「っ!?」」
「これでは殿下の次の婚約者がサキュラに決まってしまうではないですか!」
グレムは姉のユトピアに怒りを向け始めた。しかし、ユトピアは驚きも動揺もしなかった。姉として弟のことは手に取るように分かるからだ。だからこそ、呆れながら反論を始める。
「グレム、殿下の次の婚約者がサキュラになるとは限わないわよ。殿下とサキュラが婚約するかどうかは王家と我が公爵家と話し合って決めるだから」
「エボール殿下は仮にも王族……次の婚約など簡単に決まるものではないが?」
「姉上と婚約解消した時点で義妹のサキュラになるに決まっているではありませんか! ただでさえ殿下はサキュラと浮気まがいなことをしていて、」
「いや、浮気でしょ」
浮気まがいとグレムが行った直後にユトピアは浮気だと断じた。姉として弟に現実を突きつけるために。
「な、何もまだそこまで……」
「あの二人はもうそういう関係なのは明白、貴方もそれくらいは分かっているでしょう。現実から目をそらしてもダメ。もう手遅れなのよ」
「そ、そんな……」
手遅れ。そう言われてグレムは言葉を失った。確かにグレムの目から見てもエボールとサキュラの関係は恋人同士のそれだ。サキュラはグレムとも仲良くするが、王太子の立場にあるエボールとは比べるまでもなかった。
「グレム。貴方がサキュラのことを特別に可愛がるのは分かる。初めてできた妹だから気持ちは分かるけどね」
「なっ! そ、それは……」
「でもサキュラの性格上、貴族として問題があるわ。サキュラは可愛い顔で天真爛漫に見えるけど、本質的には我儘で自分勝手。人の物ばかり欲しがるような無自覚な意地悪な子ども。そんな子を可愛がるばかりでいいの?」
「う……」
「そもそも、貴方もサキュラが自分の手には負えなくなってるって気づいているでしょ? 義兄の意地を張っても仕方ないわよ」
「……」
ユトピアは、グレムが甘やかしすぎる傾向があると思っていた。だからこそ、ユトピアはあえてグレムに追い打ちをかけるように言う。現実を見極めてほしいのもあるが、それ以上にサキュラに振り回されてほしくないと思ったのだ。
「僕は……僕は……」
「グレム、本当に兄という立場を貫くなら今のままではだめだと思いなさい」
「その通りだ。今までの自分とサキュラ嬢のことを見つめ直すことをおすすめするよ」
グレムはすでに怒りを失って絶望する寸前だった。もう十分だと思ったユトピアは話を切り上げてカートと共にその場を後にした。




