第2話
「ユトピア、本気で言っているのか? この私との婚約を解消したいなどと?」
ユトピアは婚約解消をエボールに願い出た。そのことにエボールは激しく取り乱すということはなく、以外そうな顔で驚くだけだった。
「申し訳ありません、エボール殿下。私は殿下の婚約者として誠心誠意お仕えしたいと思っていましたが……」
ユトピアは内心では申し訳ないと思ってはいない。むしろエボールにこそ申し訳なく思ってほしいところだが、そんなことは期待できないでいた。
「何故だ? 何故、いきなり婚約解消などと言い出すのだ? 私は王太子であり、お前はそんな私の婚約者だろう。それほどの高待遇なのに何が不満だというのだ?」
何が不満なのか。それを聞いてユトピアはもはやため息を吐きそうになったが、それを堪えて婚約解消するだけの不満を口にした。
「はい……不満というのは、我が妹と殿下の関係にあります」
「む……サキュラとの関係だと?」
エボールの表情が少し変化するのをユトピアは見逃さなかった。サキュラの名を聞いただけで若干口元が綻びそうにに見えたことを。
「殿下がサキュラのことを気に入っていることは分かっています。姉としては嬉しく思っていましたが、あまりにも肩入れしすぎではないでしょうか? もうすでに浮気と言ってもいい関係に思われますが?」
「あ~……それは……」
エボールは面倒くさいと思っているようで言葉に詰まる。身に覚えがあるどころか自覚しきっていたのだ。しかし、自身の王族としての立場もあって何とかなるだろうと特に気にしないでいた。
だからこそ、今になってそれを咎めるようなユトピアが気に入らなかった。婚約解消する理由も理解できてもだ。
「……今更なんだ? 別にいいじゃないか。確かにサキュラとの関係は問題かもしれないが彼女のことは愛人にでもすればいいだろ? わざわざ婚約解消する必要がないと思うが?」
「貴族社会において愛人というのは、妻が子供を作れないか妻の血筋に問題があった場合などの極めて例外がなければ必要とされません。殿下にサキュラが愛人として必要とされる例外的な理由がありますか?」
「……それは、」
「そもそも、愛人を持つというだけで偏見の目で見る貴族の多いのをご存知でしょう。それなのにサキュラを愛人にすればサキュラは幸せになれるでしょうか? 私にはそんなことを思えないですよ。無論、私がサキュラの立場なら嫌だと思います」
「……」
思い切ってサキュラを愛人にするとエボールは言ったが、愛人がどういうものかをユトピアに説明されて何も言えなくなってしまった。仏頂面で黙り込むエボールを見て、ユトピアはこれ以上の会話は意味をなさないと悟った。
「殿下、殿下とサキュラの関係はすでに一線を超えているものと思われます」
「なっ、もうそこまで知られていたのか!?」
何故、バレていないと思えるんだとユトピアは思う。すでにエボールがサキュラと肉体関係を持っていることも把握済みだというのに。
「今更ですが、殿下がサキュラとの関係を見直すことはもう難しいと思われます。違いますか?」
「た、確かにサキュラを手放すことなどできない……だが、それで婚約解消というのは早すぎるのではないか!? 私の父である国王やお前の父である公爵が黙っていないはずだ!?」




