第12話
サキュラの心が一気に冷める。怒りも悔しさも無駄に思えてきたのだ。自分がやってきたことは結果的にユトピアのためになった。今、寄り添ってくれる父は『公爵家』のことしか考えていない。義兄も厳しくなった今、誰に頼っても縋っても無駄だと……諦めた。
「分かりました……お時間をいただきありがとうございます」
「サキュラ……それとお前の婚約の件だが、」
「もう……お父様のお好きにしてください……」
サキュラは踵を返して部屋から出ていこうとする。どうせ父親に決められるのだからと思ってのことだが、その父親は予想外の言葉を口にした。
「お前の好きにしていい」
「……え?」
「エボール殿下でも他の男でもいい。お前の好きな相手にしなさい。ああ違う。ユトピアの婚約者を狙うのはだめだぞ。狙っても無駄だからな」
「どうして……お父様は私達よりも公爵家が大事なんでしょ?」
サキュラは心底不思議に思った。父クロノスはサキュラがエボールと不適切な関係になっても何も言わないような父親であり、娘どころか家族全般よりも公爵家が一番大事だと言うような男だ。そんな男がサキュラの婚約について好きにしていいとはどういうことなのだろう。
「公爵家は大事だ。しかし、我家は王家に匹敵するほど大きくなっている。娘の婚約くらい好きにしてやってもいいだろう。結果的にはユトピアは本当に好きになった男と婚約できたんだ。お前も努力の仕方は間違ったのかもしれないが好きな相手と結婚していいと私は思う」
「お父様……」
「こんな父親だが、娘の幸せを願っているのも本心だ。ただ、お前は公爵令嬢として不適切な行動をしてきたのも事実。一緒になって幸せになれる相手くらい決めなさい」
「はい……!」
サキュラは父の言葉に感激して部屋を出た。その姿を見てクロノスは呟く。そこで初めて笑みを作った。
「ユトピアとエボール殿下の婚約解消したからには、どうせサキュラには道は一つしかない。あの騎士団長の息子も親にお叱りを受けたようだし、サキュラから距離を取るだろう。グレムはサキュラに最近厳しくなったようだし、また誑かされる前に婚約者を見繕っておこう。何にせよ、娘二人が王族の伴侶になる。私は間違っていなかったわけだ」
その後、クロノスの思惑通り、サキュラはエボールと婚約することになった。デケイド・アノ・ザライダは騎士団長に素行の悪さがバレて厳しい指導を受けることになり、グレム・リン・サジタリスはゲンム侯爵家の令嬢と婚約、ユトピアは隣国に嫁ぐ準備が始まった。




