第11話
「……それなら、ロドバ王子とお姉様が婚約したのはどうしてよ?」
「あの二人は互いに優秀な者同士、意気投合したんだろう。ユトピアからは話が合うと聞いていた。ロドバ王子もユトピアのことを見初めてくれたのかもしれんな。エボール殿下は王太子としては自覚も資質も足りなかったから婚約解消となって良かった、」
「何なのよそれっ!」
サキュラはクロノスの言葉を遮るように怒鳴った。彼女の顔は赤く染まって、頭の中は怒りと妬みでいっぱいだったのだ。その理由は理不尽だが姉のユトピアにある。
「私が狙っていたエボール様が廃嫡して臣籍降下したのに、お姉様は隣国の王子と婚約なんて許せない!」
「何故だ? お前が許せない理由がわからないな?」
クロノスの疑問にサキュラは涙ぐみながら叫んだ。
「お姉様はいつも恵まれてる! 学園で誰よりも成績優秀で誰よりも美人! あらゆる分野でトップクラス! 私はいつもそんなお姉様と比べられて惨めだった! 何か一つでも上回るものなんて無かった!」
「サキュラ……」
「だから、お姉様の婚約者の王子様と仲良くなって、王子様にお姉様よりも認められたかった! お姉様とエボール様の婚約が解消って聞いたときは初めてお姉様に勝ったって思ったのに……!」
サキュラは胸の内を吐き出すように喚き続ける。それは姉ユトピアに対する劣等感だった。王子であるエボールを奪うことでユトピアに勝ったと思ったのに、肝心のユトピアが隣国の王子と……サキュラからしてみれば悔しくて仕方がないのだ。
やがてサキュラは叫び疲れたのかその場に膝を折る。そんなサキュラをクロノスは静かに寄り添う。
「サキュラ、お前がユトピアに劣等感を抱いていたことは分かっていた。エボール殿下に取り入ろうとしていたのもそれが理由だと分かっていたが子供のやることだと私は静観してしまった。それが間違いか正解なのか……それは私だけが判断することではない」
「お父様、どういうこと?」
ここは慰めるところなんじゃないの、とサキュラは思ったがクロノスは父親である前に『公爵』だった。
「ユトピアとエボール殿下の婚約解消の話は最初痛手だと思ったが、エボール殿下の中身が次期国王にふさわしくないと理解できた。そんな王子と娘を婚約させずに済んだ。ユトピアの次の婚約も困難になると思ったのだが、隣国のロドバ王子からの求婚……我家は隣国とのパイプができたのだ。結果的には良かったことのほうが大きいと私は思っている」
「…………」
つまり、サキュラがエボールをユトピアから奪おうとしたことで公爵家は得たものが大きいと言うのだ。そんな父親の言葉を流石にサキュラも理解したが、どう受け取ればいいかわからない。どっちっかというと腹が立つ。
「……私のしたことはお姉様のためになったってこと?」
「ユトピアはもちろん、公爵家としては良かったということだが?」
「私は?」
「? 大好きなエボール殿下の心を射止めただろう? 後に伯爵家当主だがな」
「……そうですか」




