第10話
エボールが国王とユトピアの婚約者について問いただしていた頃、サジタリス公爵家の屋敷はサキュラが慌ただしくして父親に迫っていた。
「お父様! どういうことなの!」
「……なんだね?」
「お姉様の婚約者が隣国の王子様ってどういうことよ!?」
サキュラは激しく動揺しながら父親であるクロノス・ノバ・サジタリス公爵に向かって叫ぶ。クロノスは緑色の髪に黒目の厳格な顔つきの壮年の男性で強面だが、サキュラは怯むことなく姉の婚約について納得がいかないことを伝える。
「お姉様の婚約者って、顔はいいけど子爵令息でしかないカートっていうエボール様の側近だった男でしょう!? それなのに隣国の王子って発表があったのはどういうことなの!? いつの間に変わったのよ!? ありえないんだけど!?」
「……いいや違う。そうじゃない。元々隣国の王子だったのだよ」
「はぁ!? 子爵令息と婚約したのは嘘だったの!?」
「それも嘘ではない」
「それじゃあ、どういうことなのよ!?」
苛立ちを募らせるサキュラに対してクロノスは無表情で真実を口にした。
「エボール殿下の側近だったカート・クモン子爵令息……その名と姿は仮初のもの。彼の正体はグレートアイズ王国の王子――ロドバ・ロン・グレートアイズだったのだよ」
「……な、なんですって!?」
驚くサキュラにクロノスは淡々と説明を続ける。まるで関心がないかのように。
「我がキョリュグリド王国と隣のグレートアイズ王国は友好国。その歴史も長い。それ故に互いの国の王子が身分を偽って隣国の学園の生徒として入学することがあるのだよ。今回はロドバ王子だった。ただそれだけのことだった」
「で、でも、エボール殿下の側近だったのよ!?」
カート・クモン子爵令息がエボールの側近となっていたことは多くの貴族が知っていることだ。クロノスの言うことが事実ならこの国の王子は隣国の王子を側近にしていたことになる。流石のサキュラもそんなことが許されるわけがないと思ったようだが、クロノスは明確な答えを口にする。その時に、初めて眉間にシワを寄せるくらいに顔を歪めた。
「エボール殿下が彼を側近にしたいと言い出したのだ。カート・クモン子爵令息は目立たない容姿だったようだが成績はトップクラス。それを見込んで側近にしたらしい。その正体を知らずにな」
「は? え? 何よそれ? カート――ロドバ王子は納得なんてしないでしょう? 仮にも王子なんでしょ?」
「ロドバ王子は構わないと言ったらしい。結果的にキョリュグリド王国の内部をより深く知れるとのことでな。おかげで我が国の王家のことも悪い意味で知られたことだろう。恥ずべきことだ……」
カート――ロドバ王子は側近としても優秀だったとクロノスは聞いている。それは娘のユトピアからの話だったから間違いないだろう。王子の側近をこなした、ということは良くも悪くも国のことを知られたのは間違いないのは確かだ。公爵であるクロノスからしたら苦々しい話だが、別に悪いことばかりではない。




