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第八話『王都に拳を。支部設立と、才能なき少女』


――王都セリオネ南区、旧兵舎跡地。


石造りの小屋の前で、劉玄道は両腕を組んでいた。

その表情には珍しく、わずかな満足の色が浮かんでいる。


「ようやく、王都拳士団の拠点が整ったか……」


三日前、中央評議会から“仮認可”がおりた。

拳士団の王都支部設立と、“力なき者の護身術”としての拳法の教育が、条件付きで許されたのだ。


「条件って?」


「“武装禁止・武力介入禁止・教導対象はマナ適性のない者限定”だってさ。まあ、めちゃくちゃ見張られてるよ」


ラナが肩をすくめて言う。


「それでも、希望には違いない。スラムだけじゃない。この街にも、手を差し伸べる価値がある」


ティオは建物の前で、開講準備の看板を立てていた。


『拳士団 王都支部 新規入門者募集中! 剣も魔法もない君へ』


開始初日、集まったのはたった“3人”。


男の子が一人、女の子が二人。

だが――その中に、一人だけ、明らかに目つきの鋭い子がいた。


「あなたが先生?」


そう言った少女は、細身で小柄だが、背筋はピンと伸びていた。

髪は赤毛で、顔は日焼けしている。手のひらは、すでに硬くなっていた。


「名は?」


「ミレイナ。元は王都北の養護院にいたけど、出された。……マナがゼロだったから」


「剣の適性は?」


「なし。魔導具も起動しない。けど――負けるのは嫌い」


その一言に、劉玄道は静かにうなずいた。


「よし。お前に拳法を教えよう」


翌日から始まった稽古は、地味で厳しかった。


馬歩まほからだ。拳法の基礎は、まず“立つこと”だ」


「……足が、震える……」


「それでいい。最初は誰でもそうだ。だが、崩れずに立ち続ければ、必ず力は宿る」


ミレイナは、黙って立ち続けた。何時間も、膝を笑わせながら。


数日後、彼女の拳が小さな木板を砕いたとき――


「やった……!」


その声は、叫びというより、初めて得た“自信”の囁きだった。


「その拳は、お前だけのものだ。誰かに与えられた才能じゃない。お前が作った力だ」


「私……私、強くなりたい。ずっと、誰かに守られるだけじゃなくて……今度は、守る側になりたい!」


劉玄道はうなずいた。


「ならば、お前はもう“弱者”ではない。これからは、“拳士”だ」


――そして、その場に立ち会っていたラナが、そっと呟いた。


「こうやって、少しずつ“無力”が“力”になってくんだね」


拳士団。

それは、特別な力ではない。誰にでもできる、地道な積み重ね。


だが、だからこそ――確かな変化を呼ぶ。


それが、今、王都にも広がり始めていた。


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