第五話『初任務、スラムの外へ。拳で盗賊を討て!』
スラムの拳士団が、初めて“依頼”を受けたのは、その三日後のことだった。
「盗賊が出たんだ。町外れの街道に。護衛を雇う金もないし、困っててな……」
依頼主は、痩せた野菜商人の男だった。
細々とスラムに食料を運んでくれる、数少ない“まともな人間”だ。
「頼れるのは、もうお前たちくらいしかいないって聞いてよ」
「引き受けよう」
俺は即答した。
ティオもラナも、軽く頷いた。彼らの中に、もう迷いはなかった。
だが――
「……で、俺たち、どうやって戦うの? 剣もないのに、盗賊相手だよ?」
「なに言ってんのよティオ。拳があるでしょ。あと、足と肘と膝と頭突きも」
「物騒すぎるよラナさん……!」
俺は苦笑しながら言った。
「お前たちは、武器を持たない。だが、技を持っている。戦うときは“恐れ”ではなく、“覚悟”を持て」
一行は街道を進む。
スラムを出るのは、全員が初めてだった。外の空気は澄んでいて、草の香りが強く感じられる。
「……きれいだな」
「こんな空気が吸えるなんて思ってなかったよ」
そんな感慨に浸っていた、そのときだった。
「へっへっへ……来たな、カモどもが」
林の陰から、盗賊どもが現れた。
男3人、女1人。全員が剣か斧を持ち、よく鍛えられた体格をしている。
「なんだ? こいつら、子供とガリガリばっかじゃねえか。……はは、戦う気かよ?」
「拳士団だ。俺たちが相手になる」
「はぁ? 拳士団だぁ? バカか、魔法も剣もなしで、盗賊とやり合うつもりかよ!」
言い終える前に、ラナが飛び出した。
「“前転燕蹴”!」
低く転がりながら接近し、跳ね上がるようにして足を突き上げ――
盗賊の顎にクリーンヒット。
ゴッ!
男がくるりと一回転して地面に倒れた。
「なっ……!? いま、何を……!?」
「踊り子の回転力、舐めないでよ!」
次にティオが、背後から迫る斧男の腕を見事にさばき――
「“八極突”!」
ドンッ!
突き出した肘が、斧男の腹に食い込み、吹き飛ばした。
「う、嘘だろ……マナも剣もない奴が、なんでこんな……!」
最後の盗賊が剣を構え、俺に向かってくる。
「お前らが何人いようと、こんなもん――!」
「“崩拳”」
一撃。肋骨のあたりを軽く叩いたような拳。
それだけで、男の体がふわりと浮き、そのまま前のめりに崩れ落ちた。
「な、なんなんだよ……お前ら……」
「“無能者”だ。だが――“無力”じゃない」
盗賊を縛り上げ、野菜商人に引き渡す。
依頼は、完遂された。
その日――
スラムに、“初めて報酬を持ち帰った者たち”が現れた。
「本当に……戦えたんだね」
「俺たちでも、人を救えた……!」
ラナが、微かに笑った。
「拳士団、始まったね」
「まだ始まりだ。ここからだ」
俺たちは、今日も拳を握る。
“無い者たち”が、“ある者”に勝つために。