表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/23

第四話『拳士団、始動。特訓と少女ラナ』

スラムの朝は早い。だが今日に限って、その空気には活気があった。


「さぁ、馬歩だ! 腰を落とせ、足幅を忘れるな! 気を丹田に集中!」


「ひいぃぃ、また足がプルプルしてきたぁぁ!」


「三分は耐えろ。三分ができなきゃ、五秒の戦いも生き残れん!」


砂埃の舞う広場で、十人ほどの男女が必死に構えを取り、汗を流している。

子供もいれば、初老の男も、片腕の若者もいる。


誰一人、才能と呼べるものはない。

だが、皆に共通しているのは――**「変わりたい」**という意志だ。


俺、劉玄道が教える拳法。それは、ただの戦闘術じゃない。

「無い者」でも、「戦える者」になるための術だ。


「見ろ、ティオ。もう皆、最初の日のお前と同じ道を歩き始めてるぞ」


「……はい。でも、オレなんかよりずっとスジが良い人もいますよ」


ティオは嬉しそうに笑う。あどけなさが残るその顔には、確かな自信が芽生えていた。


そのとき――ひときわ鋭い視線を感じた。

視線の主は、訓練の輪から少し離れた場所に座る少女。


片目に包帯を巻いた、あの少女だった。


「君。名前は?」


「ラナ。スラムのガラクタ拾い」


短く、乾いた声。でも、瞳はまっすぐに俺を射抜いていた。


「興味はあるんだろう? 拳法に」


「……ないとは言わない。でも、信じてない」


「何をだ?」


「“強くなったら、世界が変わる”って考え」


俺は少しだけ目を細めた。


「現実は、変わらない。マナも剣もない私たちは、いつか踏み潰される。それだけのこと。拳なんかで、覆せると思ってるの?」


「いや、思ってるわけじゃない」


俺は正直に答える。


「やってみなきゃ、わからない。だから拳を握る。それだけだ」


ラナの目が、わずかに揺れた。


「ティオ、来い。ラナと手合わせだ」


「えっ!? ええええええ!?」


ラナも驚いたように眉をひそめる。


「ふざけてるの?」


「お前の中に、“信じたくない希望”がある。それを拳で確かめろ」


ティオが戸惑いながら構えを取る。


「い、行きます!」


ラナが動いた。小柄な体を低く沈め、横から鋭い手刀――


「速いっ!」


ティオがぎりぎりで防御に成功する。

ラナの動きは、素人とは思えないほど洗練されていた。


「……ちょっと、動けるじゃねーか」


「昔、踊り子をやってた。今は……無意味だけどね」


「無意味なんかじゃない。動ける身体があるなら、拳を使えば“武器”になる」


ティオが、勇気を込めて一歩踏み出す。


そして、拳がラナの肩に触れた。


――風が止んだ。


「……ちゃんと痛い。ちゃんと、ぶつかる。ちゃんと、届く」


ラナは、そっと呟くように言った。


「教えて。あたしにも、それ」


その瞬間、新たな拳士が生まれた。


スラムに、少しずつ集まり始める“拳を握る者たち”。


マナゼロ、剣ゼロ、それでも――


俺たちには、拳がある。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ