第二十二話『拳士団、王都認可へ――始まる新章』
王都の朝は、騒がしかった。
「見たか? 拳でグリマルクを叩き壊したって話、ほんとか?」
「魔導じゃなく、素手で? ウソだろ、そんなもん……」
「でも連盟のエリシアが捕まったのは本当だってさ。拳士団ってやつの活躍、王都中で話題だよ」
市民たちのざわめきが、路地にも広場にも響いていた。
その中心で、拳士団の本部は騒然としていた。
本部といっても、石造りの古びた道場のような建物で、屋根にはまだ砲撃の焦げ跡が残っている。
玄道は縁側に腰を下ろし、湯気の立つ茶を口に含んでいた。
「先生、報告です!」
駆けてきたのは、ティオだった。
汗をにじませたまま、興奮した顔で紙を差し出す。
「これ、王都からの正式な文書っす! 拳士団、王都認可されましたって!」
玄道は一瞬、目を細めた。
「……本気か」
「本気ですって! ほら、署名も印章もあるし、これ……すっごい立派な封蝋!」
ミレイナも続いてやってくる。
「王都から“新たな武技体系としての可能性”を正式に認められたんです。連盟の影響が薄れた今、代替手段として“拳士教育”が注目されてるんですよ」
「なるほどな。皮肉だが、力を見せつけたことでようやく話を聞いてもらえたか」
玄道は静かにうなずいた。
だがそのとき、木戸の外からひとつの声が響いた。
「……拳士団、見学希望です!」
扉を開けて立っていたのは、まだ幼さの残る少年だった。
ぼさぼさの髪、泥のついた服。けれど、その目だけはまっすぐだった。
「俺……マナも剣の素質もなくて。でも、強くなりたいんです!」
玄道は、その瞳を見ていた。
――自分と同じだ。
かつて、何も持たなかった。
誰にも期待されなかった。
だが、“拳”だけは、裏切らなかった。
「名前は?」
「リトって言います!」
「よし、じゃあリト。拳士団、最初の試練だ」
「は、はい!」
「まずはこの道場の床、全部磨け。ピカピカになるまでな」
「えっ!? あ、はいっ!」
ミレイナがくすくす笑い、ティオは肩をすくめる。
「先生、やっぱり地味なとこから始めさせるっすね」
「拳ってのは、地味な積み重ねだ。派手な魔法みたいに、一夜で覚えるもんじゃない。だが、一度身につければ、どんな相手にも届く」
玄道の言葉に、拳士団の皆がうなずく。
――こうして、新たな一日が始まった。
王都に認められた拳士団。
だがその道はまだ始まったばかり。
玄道は、湯呑みを置き、立ち上がる。
「さあ、次の一手を打とうか」
静かに握られた拳に、新たな戦いの決意が宿っていた。




