第十六話『王都騎士団選抜戦――拳は剣を超えられるか』
王都西郊の訓練場は、広さ一町を超える平地に、魔除けと安全結界が張られた正式な戦闘試験場だ。
その周囲には、すでに百人を超える見物人が集まっていた。市民、役人、王都兵、そして魔導連盟の観察官たち――
「拳士団がほんとに剣士相手に勝てるのか?」
「そもそも、魔法すら使えない奴らが、なぜこの場に?」
人々の声がざわめく中、玄道たちは淡々と準備を進めていた。
「緊張してる?」
ミレイナがティオに聞くと、彼は小さくうなずいた。
「うん……でも、負けたくないって気持ちの方が強い。俺、先生に教えてもらった拳で、証明したいんだ。俺たちは“何者にもなれる”って」
玄道は頷き、静かに言った。
「大切なのは“勝つ”ことじゃない。『拳士団』として、何を信じているか。それを相手にぶつけろ」
そして、開始の鐘が鳴った。
試合形式は三対三の団体戦。王都騎士団選抜の三名は、いずれも実戦経験豊富な猛者だった。中でも先鋒を務めるのは、銀髪の剣士カイル・グレイ。王都剣技大会で二度の優勝を誇る実力者だ。
「徒手空拳で俺に勝てると? その自信、どこからくるんだ?」
「“強さ”が剣の中にしかないと思ってるなら、痛い目を見ろ」
玄道は構えた。
脚は半歩後ろに、右手は開き、左拳を引いて――呼吸を整える。
カイルが仕掛けた。音すら切る鋭い抜刀からの突き。だが玄道は、一歩も引かず、身体を捻ってかわす。
「なっ――!」
次の瞬間、玄道の掌底がカイルの胸鎧に直撃した。
ドンッ!
観客席まで響く鈍音。カイルの身体が浮き、仰向けに倒れる。
「一撃……!」
審判が手を挙げた。
「先鋒戦、拳士団・玄道の勝利!」
場内がざわめく。魔法でも、剣でもない――拳が、王都騎士団を倒した。
次鋒戦はティオ。相手は魔力を帯びた剣を使う“符剣士”。一見して分かる格上の相手だ。
しかし、ティオは臆さなかった。軽やかな“幻歩”で足元を制し、振り下ろされる刃を紙一重で避ける。
そして、相手の懐に滑り込み、回転蹴りを叩き込んだ。
「くっ……!」
相手は剣を取り落とし、片膝をつく。
「次鋒戦、拳士団・ティオの勝利!」
最後はミレイナ。小柄な彼女が対するのは、大盾を構えた屈強な騎士。力では勝てない。だが彼女は、恐れずに踏み出した。
“重心”を見抜け。相手の重さを“力”に変える。
彼女の拳は風のように速く、大盾の横をすり抜けて――首元の隙間に、寸止めの拳が止まった。
「……勝負あり!」
三戦三勝。拳士団の完全勝利だった。
観客席から、最初の拍手が上がった。やがて、それは波のように広がる。
「すごい……剣を持たずに……」
「魔法なしで、こんな……!」
観客たちの目が変わった。嘲笑ではなく、敬意を宿した目。
フレイが呟く。
「……見事だ。“拳”がここまでの力を持つとは」
拳士団の名が、真に王都に刻まれた瞬間だった。




