第十五話『拳士団、王都庁舎へ――正義の席は空いているか』
王都西庁舎は、白石造りの巨大な建築で、魔導連盟の一部門もここに入っている。
この日、普段は静かなその一角に、異様な注目が集まっていた。
「おい、あれが“拳士団”らしいぞ」
「武器もマナの杖も持ってないって本当なのか?」
道行く役人や見習い兵たちの視線を受けながら、玄道、ミレイナ、ティオの三人は庁舎の階段を上がっていった。
ティオは小声で言う。
「こいつら全員、俺たちを見下してる目してるな」
「いいさ。その目のまま、俺たちの拳を見ればいい」
玄道の言葉に、ミレイナは小さく笑った。
「先生、怖いもの知らずですよね」
三人が案内されたのは、五階の公聴室――
扉を開けると、そこには長机に並ぶ高官たちと、裁定官の立会人。魔導連盟の制服を着た者が数名、静かに資料をめくっている。
「拳士団、入室しました」
「では、事情聴取を始めよう」
中央の席にいた初老の裁定官が口を開いた。鋭い目つきの男で、資料の束を前に整えられた指は細く冷たい。
「まず、君たちは法的には“武力団体”と見なされうる。武器を所持せずとも、徒手空拳で相手を制圧する手段を持つからだ。これは法に照らして危険因子となる可能性がある。異論は?」
「異論はない。だが、“武力”とは使い方で意味が変わる」
玄道が静かに返す。
「俺たちは誰かを脅すために拳を使ったことはない。必要なのは、“誰かを守る”ための力だ」
「ふむ。それを証明するには……」
一人の役人が立ち上がり、巻物を開く。
「第七層区での制圧事件。報告によれば、牙の門番の構成員十四名を無力化し、一名は顎骨骨折、他は重度の打撲。被害届の提出者はいないが、やりすぎとの指摘も――」
「力なき者が虐げられている時に、加減などできるか」
玄道の声に、役人が言葉を詰まらせる。
ミレイナが小さく口を開く。
「私は、助けたいと思っただけです。弟のような子が、あんな場所に閉じ込められていて、黙って見過ごすなんて、できませんでした」
その言葉が一瞬、場を静かにした。
裁定官は書類を閉じた。
「君たちに“正義”があると認める者もいれば、“暴力”と見る者もいる。だが、今日の議題は一つ。“拳士団”が王都にとって有益かどうか」
「だったら、こうしよう」
玄道が一歩前に出る。
「俺たちに試練を与えろ。王都が用意した“力の正義”に、俺たちの拳で答えてみせる」
ざわめく公聴室。フレイが静かに頷いた。
「……その申し出、受理します。七日後、訓練場にて模擬戦を行っていただきます。相手は王都騎士団選抜隊」
「望むところだ」
拳士団、正義の席へ。
次なる舞台は、王都最大の“試練”だった。




