第十話『貴族派の挑戦状。拳士団 vs 魔導試合!』
「拳士団宛てに、正式な“魔導試合”の申請が届いた」
ティオが手にした羊皮紙には、王都魔導貴族のひとつ“オルレアン家”の印章が押されていた。
内容は簡潔だった。
『拳士団が真に力で人を守れるというなら、魔導学院の代表選手と試合をせよ。王都中央広場にて三日後、公開形式で行う。』
「まさか……貴族が“表”に出てくるとはな」
ラナは険しい顔をしてつぶやいた。
魔導試合――それは魔法の力を持つ者同士が、非殺傷魔法により名誉を競う古式試合。
だが、今回は異例の形式だ。“拳士団との混合試合”。
「玄道先生、出るんですか?」
ミレイナが不安げに尋ねる。
まだ修行の途中だった彼女にとって、魔法使いとの戦いは想像もつかない。
「出るさ。だが、俺は出ない」
「えっ?」
「この試合の意味は“拳士団が何者か”を示すこと。俺が出たら、ただの“異世界の達人”が強いだけだ。意味がない」
「じゃあ、誰が……?」
玄道は、一歩前に出たミレイナを見た。
そして、その肩に静かに手を置く。
「お前にやってもらう。今の“拳士団”がどれほどのものか、見せてこい」
「……私が?」
「お前の拳には“心”がある。技術ではなく、“何のために殴るか”が拳を強くする」
ミレイナの中に走ったのは、不安でも恐れでもなく、
――熱だった。
「……わかりました。やってみます」
三日後――王都中央広場。
白石の円形ステージ。
見下ろすように取り囲む石段には、貴族と市民が入り混じっていた。
「向こうの選手は……」
「魔導学院主席、ラズロ・アークライト。雷属性の高位術士です」
ティオの解説に、ラナが顔をしかめた。
「なんでよりによって、トップエリートが……」
「見せしめだろう。“拳士団”は所詮遊び――そう思わせたいんだ」
観客席では、ギルデン・オルレアンが悠然と見下ろしている。
だが、その視線に、劉玄道はわずかに笑みを浮かべた。
「見せてやれ。拳に込めた“覚悟”を」
ミレイナは、ステージに立った。
対するラズロは、金色の法衣をまとい、笑っていた。
「冗談かと思ったが……君か。“マナゼロの拳士”って」
「そう。あなたが魔法の頂点なら、私は拳の底辺」
「ならば、証明してみせろ。下からどこまで届くのか!」
試合開始――
ラズロが雷撃を放つ。青白い電光が地を走り、ミレイナへ迫る。
だが、その瞬間――
「“歩法・燕返し”!」
地を滑るように流れたミレイナの体が、雷の軌道を外れる。
次の瞬間、間合いを一気に詰め――
「正拳、直進!!」
拳が、風を裂いた。
ラズロの防御障壁が振動し、たった一撃でひびが走った。
「なっ……!? 直撃だと……」
観客がざわめく中、ミレイナは静かに構えを取り直した。
「私は“魔法”に届かない力だと思われてきた。でも……拳は届く。“心”があれば、どこまでも!」
玄道はその姿を見て、目を細めた。
――拳は、誰にでもある。
“最も身近な武器”が、いま王都の常識を揺るがそうとしていた。




