第8話「家庭教師がやってきた」
「ジェリド様お久しぶりですね。そして、サラティス様は生徒としては初めましてですね」
ジェリドとサラティスはお辞儀をする。
相手は家庭教師のデルムだ。
ジェリドは彼女から、文字や計算、生活常識など教わった。
教室はもちろん、リステッド家内の部屋でだ。なので、サラティスもデルムを相対したことはあるが、生徒として教わるのは初めてだ。
「サラティス様は既に文字に関しては学習済みとのことで計算あたりから初めてみましょう」
「デルム先生、何で僕もやるんですか?」
「詳しくはアレシア様にお聞きしてほしいのですが、軽くお話を伺ったところジェリド様にとっては復習になる。そして、サラティス様が困った時は助けて欲しいからとのことです」
「なるほど、分かりました」
ジェリドは勉学は好きではないが、嫌いというわけでもない。
魔術関係は嫌いだが。
「そうですね。まずはこちらをご覧ください」
デルムは持ってきた小さな箱から鉛貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨を取りだした。
「まずサグリナ王国ではこの五種貨幣があります」
サラティスは目を輝かせる。初めて見るし、自身の知っていた貨幣と大分様変わりしているからだ。
「この鉛貨一枚一フェルです。フェルはお金の単位です」
デルムはサラティスの様子を確認する。特に問題なさそうなので進めることにした。
「銅貨は一枚で十フェルになります。さて、サラティス様質問です。鉛貨を何枚集めたら銅貨一枚と同じになるでしょうか?」
「じゅうまいれす」
「おお、その通りです」
デルムはアレシアから事前に賢い子だと聞いていたので驚きはしない。が、やる気のために褒めることは忘れない。
「お買い物をする時にはこの貨幣を使います。例えば、ジェリド様が剣をお店で購入したとしましょう。値段が十フェルです。この時は銅貨一枚、もしくは鉛貨十枚渡せば問題ありません」
「にゃるほど」
「銀貨は百フェル、金貨は千フェル、白金貨は一万フェルになります」
「せんせい、しつもんがありましゅ」
「何でしょうか?」
「このかへい、ぎじょうをふしぇぐために、にゃにしてるんれしゅか?」
「はい?」
思わず眉をひそめた。
数字の桁や、概念についての質問がくると思っていたら想定外な質問だったからだ。
サラティスは硬貨からうっすら魔術が組み込まれているのが見えた。
硬貨に魔術を組み込んでいるとは驚きだった。
驚きのあまり勢いで質問してしまった。
サラティスの推測では、硬貨に魔術を組み込むとしたら偽造防止のため。それが合っているか確認したかった。
「サラティス様は聡明なご様子なので理解できるかもしれませんので説明致しますね。まず、この国では硬貨を弄ったり、故意に壊して中を確認したりすることを禁止しています。破れば法律違反になり、恐ろしい罰を受けることになります」
「にゃるほど……」
「そして、正確な硬貨の具体的な中身や製造方法や秘密になってます。なので当然私も知りません。小さい魔石と何かしら魔術が仕掛けてあることくらいですかね?」
「へーしゅごいれすね」
いつか自由に硬貨を使用できるようになったらまず中を見よう、そう決意した。
そして、お買い物を想定しながらの算数をサラティは習った。
「……一つよろしいでしょうか?」
サラティスははっとした。
やりすぎたか?と。
ネイシャは元々は宿屋の娘だった。お金の計算は必要不可欠なものだった。
冷静に思い返すと、計算は全て暗算でやっていた。
慣れていれば当然のことだが、初めて計算に触れる三歳児は暗算がそもそもできないかもしれない。
「にゃ、んれしょうか?」
「サラティス様はひそかに誰かに算数を教えてもらっているのではありませんか?」
ある意味当然の帰結であろう。
初めてにしては計算が早い正確だ。
比類なき天才の可能性もあるが、文字同様に授業より前にどこかで知識を獲得していた方が現実的。
「ごほんと、おにいしゃまがやっていりゅのみてました」
「なるほど……もしやジェリド様と同じレベルでも良いかもしれませんね……一度アレシア様と相談してみます」
「やっぱサラは頭は良いんだよなー」
「はってにゃんれすか、しちゅれいにゃ」
兄妹の応酬は年相応なものであった。




