第6話「えげつない」
「おにいしゃま、ぶきはただのどうぐれはありましぇん。からだのえんちょう、にゃのれす。ぶきにふりまはしゃれているようじゃ、だめなのれす」
「う、サラのくせになんかすごいこといってるー」
「こら、ジェリド」
セクドはジェリドの肩に手を置く。
「サラティスの言う通りだよ。そろそろ身体強化の魔術も取り入れた方がいいかもな」
「えー魔術?」
ジェリドは肩を落とす。
「そうよ、ジェリドこの際だから魔術嫌いを克服しちゃえばいいのよ」
「やだよー」
「まぁ得意不得意があるからね。ジェリド、何も父さんも母さんも一流の魔術師になれって言ってるわけじゃないよ?剣士で生き残るために必要最低限の魔術をできるようになりましょうってだけさ」
「そうよ。これからサラティスも魔術を習うのよ?」
「えー」
三歳下の妹に負けるの小さいながらのプライドに傷がつく。
「よし、リステッド家に代々伝わるとっておきを伝授しよう」
「とっておき?……やる」
セクドとアレシアはにこやかに笑う。
「だったらサラも剣の練習しようよ」
「こら、ジェリド。サラティスはまだ三歳よ?」
「まぁ、本格的に教えるのなら本人に興味があるなら教えるけど、最低でも五歳にならないとだめかな」
本来貴族の娘であるなら、顔や体に傷ができるかもしれない行為は御法度である。
しかし、ここは貴族の中でも特殊なリステッド家。
そして既にサラティスには婚約者もいるし、お互い良く知る仲である。
怪我程度で婚約は破棄されたりしないだろう。
こういった事情から教えても問題ない。
「でもちょっと気になることがあるからサラティス、お父さんに向かって剣を振ってみてくれるかい?」
「はい?」
サラティスは一瞬硬直した。
セクド、アレシアにはサラティスが体を伸ばしていた手に偶然剣すっぽりはまったように見えた。
実際は違う。サラティスは気づかれない程度に強化魔術を使用していた。
三歳の女の子の身体はなにかと不便なのだ。
ケイトが走って追いつけないのもケイトの足が遅いだけでなく、これが主な理由だ。
魔術のおかげで怪我なく剣を止めれた。
さりげなく避けることも考えたが、自分が避けたら母に直撃していたので、致し方なく受け止めた。
父にバレたのかと動揺したのだ。
「はい、サラ」
ジェリドに剣を渡される。
「安心してくれ、お父さんから攻撃することは一切ないからね」
恐らく強化魔術を最大限使えばジェリドより強いとは思う。
しかし、そんなことすれば大問題に決まっている。
剣を振るのに疲れない程度に少しだけ使い父に向かって剣を振る。
「ふふ、可愛らしいわね」
「サラのやつおっそー」
三歳児の繰り出す剣だ。
ジェリドすら、剣が当たる直前で受け止める、躱すを選ぶことができるくらいの速度であった。
「えーい」
「いいぞ」
「やー」
「さすがだ」
「とー」
「天才だー」
「……あれなに?」
「ふふふふ」
ジェリドは首を傾げる。
ただ緩やかにてきとうに剣を振っているようにしか見えない。
「うん、サラティス十分だよ、ありがとう」
「ふーちゅかれました」
「ははは、確かにね。ジェリドどうだった?」
「まだまだだね」
ジェリドからすれば当然すぎる感想であった。
「こら、ジェリド」
「はい?」
「確かにサラティスの剣は遅い。でもね、剣じゃなくてサラティス全体を見ていればあることに気づいたはずだよ?」
「あること?」
ジェリドは考える。
先程の児戯に何が隠されていたのか。
「ジェリド、父さんが剣を教える理由は何だったかな?」
「魔獣から領民を、領地を守るれるようになるため……です」
「そうだね。じゃ、ジェリドが将来強くなり領主になって魔獣がやってきました。どうする?」
「もちろん倒します」
「倒していたら、とっても強い魔獣が出てきました。その魔獣はジェリドと同じくらいで引き分けてしまうかもしれません。さらに、弱いけど数が多い魔獣の集団も現れました。さて、ジェリドならどうする?」
ジェリドは暫く脳内で想像する。
「……頑張って強い魔獣を倒して、その後弱い魔獣を倒します」
「そうか。サラティス、サラティス、ならどうする?」
「わたし?」
ジェリドもサラティスの方を見る。
「おとうしゃま、つよいまじゅうは、おしょらをとびましゅか?」
「そうだね……飛ばないのにしようかな」
空を飛ぶ強い魔獣はあまり領地に現れたことがない。
「にゃら、おててをきってよわいまじゅうをたおしましゅ」
「え?」
ジェリドは想定には一切出なかった答え。
魔獣を倒す。それ以外頭に浮かばなかった。
「ジェリド、一番大切なのは自分が魔獣を倒すことじゃなくて被害を出さないことだよ。たぶん、ジェリドは倒すことだけを考えてたんじゃないかな?」
「そうだよ」
「うん、それも悪いことではないよ。ジェリドがとっても勇敢だって証だからね。さっきのサラティスの剣を思い出してごらん」
セクドはなるべく幼い心を傷つけないように言葉を選びながら教える。
「ジェリドより速度も、威力も確かになかった。でもね、剣筋はお父さんですら怖いと思うほどだったよ」
「剣筋?」
「うん。まずサラティスは剣に向かって打ちこまずに、足を狙ってきた」
「足……」
「さっきも言ったけど足を怪我したら動きが悪くなるよね?」
「あ」
「で次は足の攻撃を防ごうと剣を出した腕を狙って斬り上げた」
「……」
「ジェリドは思いっきり走っていきなり止まるのは難しいでしょ?サラティスの速度だから問題なかったけど、これが同じくらいの相手だったら恐らく腕をやられていたね」
つまりサラティスの剣はえげつないということだろう。
「剣の試合ならジェリドの戦い方が正しいし、サラティスのやり方だと邪道だ、卑怯だって言われる恐れもある。でも、これだけ聞くともし魔獣相手ならサラティスの剣の方が有利な気がしないかい?」
「サラティスの方がすごいってこと?」
「違うね。ううん、サラティスもすごいけど、方がではないよ。ジェリドは速度、威力だけで判断した。状況や見方で変わるから、一方的な視点ですごい、すごくないを決めつけるのはよくないよってことだ」
「……うーん」
子供にはまだまだ難しい話だ。
「あなた、どうしてサラティスはそんなすごい攻撃ができたのかしら?」
アレシアが知る限りサラティスが剣を振ったのはこれが初めてだ。
「たぶんだけど、サラティスはすごい目が良いんだと思う」
「目?」
ジェリドはサラティスの目を凝視する。
「はは、視力のことじゃないよ。冷静に状況を把握する能力とか物事を事細かに観察したりね」
「確かにサラティスは驚くほど気がきく子ですものね」
アレシアはサラティスの頭を撫でる。
サラティスは安堵していた。
騙すのは心苦しいが、良い感じに話の方向に向かった。
サラティスの剣筋がえげつないのは理由がある。
ネイシャの記憶で剣といえばレクスルである。
そして振るっていたのは戦争中である。
そのレクスルの剣を思い出しながら打った。
ジェリドより鋭いものになったは致し方ないことであった。
「サラ、剣振れるようになったら一緒に練習しような」
「やだー」
「ふふふ、そろそろご飯にしましょう」
母の合図で片づけが始まった。
本来なら不定期更新予定ですが、書くのが楽しすぎて毎日更新みたくなってます
しばらくしたら予定通りの不定期になると思うので申し訳ありませんがご了承ください。




