第52話「ララスト領へ」
宿で朝食を食べると直ぐに街を出た。
「サラティス様?どうされました?」
ハルティックの問いにセクドもサラティスの顔を見た。
「気分悪いのかい?」
獣牽車に慣れない人が長時間乗っていると乗り物酔をお越し、体調が悪くなる場合もある。
「……」
サラティスには二人の言葉が届かないのかぼけーっと上を見ている
「サラティス?」
セクドは顔を覗き込む。
「あ、ごめんなさい」
「まさか、夜更かしなどしてらっしゃいませんよね?」
「サラティスはぐっすり寝てたよ」
「体調は悪くないです。ただ、考えごとしてました」
「考え事?」
「はい。髪を乾かす魔術、何かできないかなと」
「あれ?昨日風魔術を使ってなかったっけ?」
「はい。でもあれじゃ、効率が悪いです。髪の短い人なら十分ですが、長い人、量が多い人はかなり大変です」
「あー確かに、出先だと大変だもんね」
アレシアの場合はタオルで時間をかけて乾かしていたのを思い出す。
「はい。でも、なんか作れそうな気はするんですよね」
「あははは、そうなったらすごいね。ゆっくり考えるといいよ。そうしてた方が酔わないだろうしね」
濡れているので水魔術を応用?それとも、火魔術で乾燥?などぶつぶつとつぶやきが漏れる。
二人にはさっぱり理解ができない。
当初の予定通り、ヘイレーゼを抜けティスバンを通過し、ララスト領に無事入ることができ、昼食を取る。
再び獣牽車に乗り、ララスト領について、ヘイレーゼ領と連なる山や魔獣について、いろいろセクドから教えてもらった。
夕方になったので、村にある宿に泊まることにした。
もう少し先に行けば街があるが、暗く、山の近くを移動するのは危険があるので今日はこの村に泊まることにした。
村と言っても五千人近くは住人がいるらしく、サラティスからすれば大きいなと思った。
夕食を食べ終え、部屋に戻り寝ようと準備を始めた頃、唐突に宿が揺れた。
『ばりばりばり』
と破壊音も聞こえた。
そして、外が騒がしくなった。
「サラティス様」
ハルティックが部屋にやってきた。
セクドは騎士達に指示を出しに行った。
「ハルティック、私は状況確認してくる。獣牽車を動かせるように指示したから、サラティスを頼む」
「畏まりました。セクド様お気をつけください」
サラティスは急いで着替えた。
「ハルティックあれ」
窓を開け外の様子を見ると赤い火が見えた。
「火事……ですね」
ハルティックは窓から少し乗り出して外を見る。
「怪我人が出なければいいですが」
「そうですね」
暫くしてセクドが戻ってきた。
「山から魔獣が降りてきたようだ」
「あら、大変ですね」
「ああ。しかもヴォルゲドだ」
ヴォルゲドとは大型の飛行魔獣である。
大きさは約十五メルほどあり、この二階建ての宿よりずっと大きい。
飛行するための大きな翼は羽ばたくだけで、近くの人間は飛ばされてしまうほど。
四本足で、地上は四足歩行するが戦闘時は二本足で立ち上がり、前足を振りかざす。
それだけではない。お尻には巨大な尾が生えており、これも振り回されれば、建物が破壊されてしまう。
そして、一番の脅威は炎を吐くことだ。
喉に特殊な器官があり、魔力に反応し炎が発生する。
吐かれた炎はサラティスが乗ってきた獣牽車なら飲み込むほどの大きさである。
王都の騎士二十人程度でようやく倒すことができる非常に強い魔獣だ。
「ひとまず、みんな外の広場に出るよ。建物の中は危険だ」
騎士の一人が荷物を獣牽車に運ぶ。
悲しいことだが、こういった非常事態を好機と盗みを働く輩が出たりするのだ。
なので警戒のために運び込む。
飛び交う悲鳴。
魔術師や戦える者を呼ぶ声。
医者を呼ぶ声。
セクドは注意深く観察する。
「……はぁ。仕方ないね。ちょと行って倒してくるね」
街から戦力が到着するには時間がかる。
他領なので軽々しく行動するのも、現場を混乱させる原因になるので塩梅が難しい。
が、これ以上被害を出さないことが先決である。
セクドも覚悟を決めた。
「うわ」
視界からセクドが消えた。
と同時にあまりにも勢いで風が吹く。
暫くすると、ヴォルゲドの大きな声、村人が煽るような、歓声が聞こえてきた。
『ズドン』
地面が揺れた。
そして、何事もなかったようにセクドが戻ってきた。
「お父様!」
「ただいま」
時間にして十分程度のことだ。
セクドの姿を見ると村人は感謝の言葉を投げかける。
「後は火事さえ消火できればね……」
「怪我人は出たのですか?」
「具体的なことは分らないけど、出てるみたいだね」
「……」
サラティスは真剣な顔でセクドを見る。
「お父様、お願いがあります」




