第51話「空の目」
「あれは、空の目っていうんですな」
「空の目?」
やはり目。空?何かの魔術か何かと好奇心が溢れだす。
「今から十四年前ですが、この街で大事件が起こったのです」
朝、住人の通報で騎士達が現場に急行した。
人通りの少ない裏路地に七人の死体が転がっていたからだ。
大量殺人である。
遺体を見ると、柄の悪そうな男たちだった。
もしやと思ったが案の定犯罪者で、このうち二名は指名手配されてるごろつき集団だった。
なので、仲間割れやトラブルの事件として捜査が始まった。
唯一気がかりだったのは死因だ。
全ての遺体に頭部に指程の穴が一つ開いていた。
これが死因だが、凶器等も現場にないため何らかの魔術ではないかと判断された。
しかし、これだけで終わらなかった。
次は三人、二人、四人、一人と違う箇所で皆頭部に穴が開いた死体が発見された。
合計十人も皆、真っ当な市民ではなかった。
夜間も騎士が見回るようになった。
そして、暫くしまた次なる被害者が発見された。
それは犯罪者ではなく、商人だった。
しかし、この商人も黒い噂が流れるような人物で、清廉潔白とはいえなかった。
捜査が進むと、この商人は数多の犯罪に手を染めており、噂は本当だった。
ここである噂が流れ始めた。
殺されるのは皆犯罪者だ。
正義の使者が悪人を懲らしめてるだけだと。
当然だが、領主は私刑を見逃すことはできない。
騎士達はさらに増えるが、一向に進展はなかった。
老若男女関係なしに次々と死体が現れる。
どれもこれも調べた結果犯罪に手を染めていた証拠が出てきた。
領主は別の意味で嘆いた。
犯罪者がこうも多かったのかと。
全員が死刑になるほどの罪かといえば違う。
領の力全てを使って犯人を捕まえようとした。
いつしか、死体は五十を越えた。
この中には騎士も含まれていた。
その日を境にパタッと死体が現れなくなった。
最初の七人が発見されてから三か月後のことだった。
つまりは三か月で五十人以上殺された、前代未聞の大事件である。
犯人が特定できないのはその殺し方であった、
全員が頭部に穴が一つ開いて死亡。
何より穴は次第に小さくなっていっているようだった。
同一の殺害方法なので全て同じ人間によるもの。
大量すぎるので、魔術具を使用した組織的犯行だと。
錯綜していた。
そして街中ではまた噂が囁かれいた。
殺された人間は全員何かしら罪を犯したことのあるもの。
つまり、街にいる犯罪者は全員殺されたから、もう死体が出てこないのだと。
二か月が経ち、一切捜査に進展がなかった。
が、ここにきて大事件が起きた。
領主家ではない貴族の次男が屋敷で殺された。
今まではある街の大事件であったが、貴族が殺されたことにより他領の貴族達も警戒した。
何よりも特質なのが暗殺ではないということだ。
貴族が殺されたのは昼、しかも自身の屋敷内でだ。
この貴族は中庭でゆったりとくつろいでいた。
本読みながら、酒を飲む。優雅なプライベートな時間だった。
当然周囲には使用人もいる。
使用人の証言によると、椅子に座っていた貴族がいきなり後ろに倒れこんだ。
酒を飲んでいたので酔って転倒したのかと。
使用人が駆け寄り起こすが反応がない。
よくよく見れば額に穴が開いており死んでいたと。
すぐさま屋敷は封鎖され、屋敷にいた人間を全員調べたが不審者はいなかった。
他領の魔術師が捜査に協力し、衝撃な事実が判明した。
頭部の穴は雷か火魔術で、遠距離から狙撃されたものだと。
まるで、空から雨が降ってくるかのように、攻撃魔術で狙撃されたのだ。
犯人を空の目と呼び、指名手配した。
殺された貴族はもれなく、かなりの犯罪に手を染めていた。
発覚すればまず死罪であった。
街では当然噂が広がり、空の目が見てる。悪いことしてたら罰を受ける。
例えそれが貴族だろうか関係ないと。
悪人だけを殺したことから、市民の間では一種の英雄として扱われ、結果シンボルとして使われるようになった。
「ああ、あの事件のことなんだね。確か、貴族の事件以降同様の事件は起きてないんだったっけ」
セクドもさすがに殺人事件は知っていた。
「おっかないですね」
口では怖がってみせるが、サラティスは対抗するならどうしようかと考え始めた。
長距離で使用できる魔術は一体何か。
食事を終え、セクドと共に眠る。
やはり、旅は楽しいものだと満足しながら意識は夢の中へ。




