第410話「なんとなく」
そして上に紫色の四枚の花弁を持ち中心から触手のようなものが一本生えている。
本来の植物でいうと柱頭部分に当たるのであろう触手は中心が管のように穴が空いており、そこから空気を噴出する。
空気が噴出されると勢いで触手が荒ぶり、周囲に風をまき散らす。
風の勢いは人間の大人が息を吹きかけるのと同じ程度で、害はない。
デュービイーは主に花粉を食べているとされている。
その風は花粉を飛び散らすためだ。
林の中の地面を見ると、木々の陰の隙間、日の当たる地点に花々が咲いている。
サラティスは前方に飛んだ。
地を踏み抜き勢いよく。
宙にて器用に体を曲げ、木を足の裏で確実に感じ取り、さらに踏み抜き、勢いを殺し軽やかに地に着地する。
理由などない。
頭がおかしくなった訳でもない。
それは完全に感覚で、なんとなくであった。
思考する前に試行していた。
刻まれた反射に近い動作。
「なっ」
サラティスがふと、視線を先程自身が立っていた場所にやると氷の棘が地に突き刺さっていた。
ぶくぶくと。
ふつふつと。
肌がさわさわ。
不意打ち。
卑怯だとは思えない。
生き残ることが大切であった。
非人道には憤りを感じたが、卑怯にはむしろ感心したこともあった。
サラティスが避けなかったら大怪我、最悪命に関わる事態である。
怒りなど、何か感じる前に不意打ちをしてきた対象の排除。
これももう反射に近い動作であった。
すぐさま反撃をしようとしたが、視界に入った人物を見てぎりぎりで静止することができた。
「……大人しくなったと思ったら、これですか。確かに学園外なので学園での約束事が通じないのは分かります。ですが、如何なものでしょうか、ノゲイストさん」
学園の運動着を着たノゲイストが立っていた。
ノゲイストだけでなく、三人程同じくクラスメイト達が揃っていた。
「っち」
「あ」
ノゲイストは舌打ちすると振り向き、そのまま去って行った。
「おい、謝ったほうがいいんじゃねぇのか?」
「ノゲイスト君」
二人がノゲイストの後を追う。
「さ、サラティスさん。わざとじゃないんだ。本当だよ?」
わたわた。
「……」
「デュービイーで魔術の練習をしてたんだ。小さくてすばしっこいから練習になるって。今日だけじゃないよ?毎週末、僕たちはここで訓練してるんだ」
「そうですか」
「ご、ごめんね」
「いいですよ。貴方は何もしてないのですから。謝る必要なんてないですよ」
「う、うん。じゃ、じゃあね」
てとてとと走って行ってしまった。
ふと数多の感情ががゆらりと這ってきたが、肌を濡らす前にノゲイストが消え、おどおどしながらも他人の不始末を謝る彼を見てそれも合わせて消えた。




