第408話「密室、記憶と少年……」
「いやー。だって僕より魔術の発動が速いんだよ?」
「速さだけで決まるほど甘くはないだろ」
「そうだけど、手数も多そうだったし。リステッドはほら、魔術だけじゃないでしょ。だってほら」
「ああ」
オドゥゴルグは昔を思い出す。
それは衝撃的であった。
当時、既にオドゥゴルグは学園を卒業していた。
魔力の多さにに恵まれていたが、魔術より剣技の方が適性があり剣を鍛えていた。
護衛騎士に混じって剣技を鍛え、現場対応の騎士に混じって魔獣を駆除し実戦による経験を積んでいた。
父に反対はされたがギルドに所属し依頼をこなしたりもした。
レクラット家は魔獣を統べる家であるため、個の武が他の貴族より求められる。
幼い時から剣と向き合ってきた。
同年代の中でならオドゥゴルグの腕は最強であるといっても差支えない。ギルドの依頼達成の評価からしても、妥当であった。
ある時、学園に入学し王都までやってきた生徒の面倒を見るように命じられた。
その時はアルバートではなく、アルバートの父、オドゥゴルグにとって祖父が当主であった。
当主の独断ではなく、王家からのお願いらしく断ることができない類であった。
彼はリステッドの長子であった。
リステッドは不幸なことが立て続けに起こり、彼に全てが託されることになったそうだ。
オドゥゴルグの世話とは具体的には彼の授業終わり、休日に騎士に混じって魔獣駆除をするので付き添うこと。
命懸けで子供のお守りをするということだ。
リステッドが魔獣駆除に慣れてるとはいえ、学園に入りたての子供。
実に面倒事を任されたと内心積もることが多々あった。
だが彼と相対しその衝撃が全てを瓦解させた。
自分は決して弱くない。
自分が魔獣を一体倒す間に、彼は同じ魔獣を十体倒していた。
正直目の前で倒す姿を見ても信じがたい光景であった。
しかもそれほどの技量であっても、彼には微塵も誇らしげな様子などなかった。
手に持つグラスが離れ、地を抱くと、躰が粉々に砕けるように。
彼の態度はそれが当然で自然体であった。
彼の腕は対魔獣だけでなく、対人も同様に隔絶したものであった。
レクラット家の騎士ではまったくといっていいほど敵わなかった。
それだけの腕を持っているのに、彼は満足も納得していなかった。
オドゥゴルグは彼にギルドに所属することを勧めた。
対人は訓練だけではどうしても鍛えられないものがある。
お尋ね者と命のやり取りをして、実感させられたからだ。
正直な話、面倒を見ることはないに等しかった。
オドゥゴルグの役目は唐突に終わった。あの事件で彼は、大いに世間を賑わせた。
それ以降、彼とは関わりがなかったためどれだけ成長したかは分かっていない。
当然であろうが、自身の子供に諸々を伝授しているだろう。
歩き方、身のこなし方がそっくりなのだ。
そうなれば、敵対すれば厄介になるという評価は決して甘いものではなく、現実的なラインであろう。
「それにしても、当主様は子供と魔獣には甘くなるのは困ったものだよね。彼女が実に理知的で助かったよね」
「……別に子供に甘い訳ではないだろう。あくまで、対象がアレだからだろう」
「まぁ、子供は宝っていうからね。別に領主として不誠実を働いた訳でもないから、僕が言うことはないけど。オドニイはどうなのさ」
「俺は家柄で差別したりしないぞ。何よりもあの家の手強さを知っている。辺境伯だからと甘く見たりはしない」
「ふーん。オドニイを怖がらない子供は貴重だしね」
「そういう意図はない。処理が終わったんだ帰るぞ」
魔獣の死骸は完全に燃え尽きた。
二人は地上へと向かった。




