第405話「この方が楽なので」
「すごいのか?」
「だってこれ、風の中に水を混ぜた魔術じゃなくて、風魔術と水魔術の二つを使ったんだよね?」
「そうですよ」
「オドニイ、右手に剣持って左手に槍持って戦ってみなよ」
「……それほどのことなのか?」
「そうだね」
「?」
フェナク曰く、魔術の腕として評価されるにはまず、難易度の高い魔術をきちんと扱えるかどうか。
次に同一魔術にて複数の制御がこなせるかどうか。
単純に火球であれば、一つより二つ、二つより三つ同時に扱えるといったことだ。
そして、違う魔術を同時に扱えるかどうか。
これは火球と水球を同時に扱えるといったことだ。
異なる魔術を同時に扱うにはまず、魔力が必要である。
それから魔術を扱うための処理能力。
これら二つが一定水準に達して初めて成しえる行為だ。
だが、サラティスにすればそれは当たり前のことであった。
それは回復魔術のおかげであろう。
人を治療するとき、複数の回復魔術を同時に扱うことは珍しくない。
現代の医者も回復魔術ならば、複数同時に使える者はどこにでもいる。
複数同時使用に慣れているからこそ、できた芸当である。
「なるほど……」
「一体どういった修練を積んだんだい?」
「修練はしてないですよ。ただ、日常で楽だなって使ってただけですよ」
「なるほどね。所でサラティスちゃんはあの巣壊して、ビルビー駆除しなくちゃいけないとしたら、どうする?」
サラティスは暫し試行する。
もちろん脳内でだ。
「駆除するんですか?」
「そうだね。下の階なら見逃しても問題ないけど、この階でこの大きさだとさすがに排除した方がいいね。だよね?」
「ああ。処分で問題ない」
「分かりました」
サラティスは巣に向かって、巣を飲み込むサイズの水球を飛ばした。
水球は素直に巣を包み込んだ。
「これでどうですかね?」
「……」
「おい、フェナクどうなんだ?」
どうやら、魔術に関してはフェナクの方が優れているようだ。
つまり、前衛にて近接戦闘をオドゥゴルグが担当、後方から魔術で支援がフェナクなのだろう。
「裂け」
すっと鋭い風の流れをサラティスは感じた。
「これはこれは……」
フェナクが風魔術を使うと、枝が斬られ、ビルビーの巣が真っ二つに裂け、地に転がり落ちる。
落ちた衝撃でビルビーの巣は細かく砕け散った。
「サラティスちゃん。どうして、わざわざ水魔術を?」
「フェナク、こいつは子供だぞ」
「知ってるよ。ただの子供ならね。でも目の前にいるのは学園を、魔術協会を騒がせている期待の新人。気になるじゃないか」
「そんな複雑な理由はないですが、楽なので水魔術を使って凍らせました」
ビルビーの巣が砕け散ったのは巣自体が凍結し脆くなっていたからであった。
「確かに巣穴の中を確実に凍らせるなら、水魔術で中まで入れた方がいいか」




