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第4話「サラティス・ルワーナ・リステッド」

 サラティスは覚悟を決めた。

 ネイシャは死んだ。これからはサラティスとして生きていこうと。

 それから考えたのは人生の目標である。

 ネイシャは平民の生まれだが、戦時中数多の功績で名誉貴族になった。

 なので貴族としての必要最低限の知識はあった。

 サラティスには兄がいるため領主を継がなくてよい。

 それなりに自由が許される身分である。

 サラティスは漠然としてだが、次の目標を立てた。


 一、美味しい物を食べる。

 二、世界を周る、まだ見ぬ景色を見る。

 三、魔術の研究をする。


 そして、月日が経ち三歳の今に至る。


「そろそろおへやにもどりましょ?」

「うん」


 サラティスはケイトが転ばないように手を繋ぎ庭から家と戻った。

 ケイト・バインドとはサラティスの婚約者である。

 バインド家はリステッド領の西南に位置するお隣さんである。

 ケイト・バインドはバインド家の次男である。

 次期領主、つまりケイトの父とセクドは幼馴染であった。

 そういった事情から幼いながらも二人の婚約が決まった。

 婚約者との交流としてケイトはよくリステッド家に訪れていたのだ。


「いいれすか?ころんだことは、ないしょでしゅよ?」

「うん」

「あら、ちょうど良かった。ケイトちゃんお迎えがいらしたわよ」

「アレシアさま、ありがとうございます」


 ケイトは優しく、気が弱いので誰かに回復魔術の事を自ら言いふらす恐れはないが、まだまだ幼子だ。ぽろっと漏らす可能性は十二分にある。

 サラティスは早速行動に移した。

 ある日の晩、父の部屋に向かった。

 ドアをノックし華麗に口上を告げる。

 貴族なのだ、ノックもせずいきなり開けるような無作法はしない。


「おとうしゃま、しゃらでしゅ。こんばんはおとう……」


 サラティスが言い終える前にドアが開いた。

 部屋の中にはアレシアもいてソファーに座っていた。サラティスが部屋にやってきたのが嬉しくてすぐさまセクドはドアを開けたのであった。


「どうしたのかな?」


 セクドはサラティスを抱きかかえソファーに連れて行き、そのまま座る。


「おとうしゃまにおねがいがあってきました」

「おおなんだい?」

「もう、あなたったら。落ちついてください。そんなんじゃサラティスが喋れないでしょ?」


 セクドは興奮していた。

 ジェリドとサラティスは三歳差である。二人とも元気盛りだが、サラティスの方が言動や行動が大人びた感じがするのだ。

 サラティスが女の子なのがあるかもしれないが、普段おねだりなんてしない娘がおねだりをしてきたのだ。

 嬉しくない親がいるだろうか?


「わたし、かいふくまじゅちゅを、にゃらいたいのれす」

「「回復魔術」」


 二人は目を開きお互いの顔を見合わせる。

 三歳の子供のおねだりである。服や食べ物、玩具のどれかであろうと想像していたので大分違ったので聞き間違いかを疑った。


「サラティス、回復魔術は魔術の中でも特に難しいんだ。まず、身体強化や水魔術あたりがお父さんはいいと思うな」


 身体強化はリステッド領で生きていくには必須になる魔術である。

 水をすすめた理由は最初は水を習うのが一般的であるからだ。

 火や風は怪我や重大な事故に繋がるリスクが大きからだ。

 水ならば、周囲が濡れる程度で済む。


「サラティス、どうして回復魔術を習いたいと思ったのかしら?」

「しゃいきん、おにいしゃまが、けんのくんれんしちぇいるのれ」

「あらあら、サラティスはとっても優しいのね」


 アレシアはサラティスの頭を撫でる。

 セクドに至っては目が潤んでいる、

 ジェリドは六歳になってから剣の訓練をするようになった。

 魔獣を駆除する力を身に着けるためだ。

 七、八歳になると王都の学園に貴族の子供は通うのが一般的だ。

 授業には剣の訓練もある。

 そこで困らないように今から初めていたのだ。

 もちろん、今は子供用の小さな木剣ではあるが、手には肉刺。

 生傷は訓練を頑張った証だ。

 それを見て、自分が治してあげたいと思う優しい心。 

 なにより、それがおねだりとして頼んでくるという優しさの化身である娘にセクドは言葉にならない程感動していた。

 娘の前だから我慢しているがいなかったら確実に涙を流していただろう。


「……そうか、なら難しいかもしれないけど回復魔術をやってみるもありだね。教科書を用意しとくよ」

「ほんとうれしゅか?」

「あ、待ってあなた。サラティスまずは文字のお勉強しましょうね」

「た、確かにそうだね」

「らいじょぶれす。もじにゃらもうよめましゅ」

「本当かい?それはすごいなー」


 セクドはサラティスの頭を撫でる。

 アレシアは立ち上がり、本棚へ行きから一冊本を抜き取りサラティスに広げて見せる。


「……もりにせいしょくすりゅ、まじゅうへのたいしょ」

「へ?」


 アレシアは目を丸くする。

 セクド、アレシアは子煩悩な親である。

 貴族によっては育児は全て使用人に任せるなんてこともある。

 アレシアはサラティスが寝る前に物語の本を読み聞かせたりする。

 なので、文字が数個読めるのは想定できるが、全て読めるのは予想外だった。


「おかあしゃまのごほんで、おぼえました」

「すごいぞーサラティス。うちの子は天才だー」


 セクドはサラティスを抱きかかえる。


「アレシア、読み聞かせをしてくれてありがとう」

「ふふ、そしたらあなたもジェリドの訓練に付き合っていただいてありがとうございます」


 甘い空気が漂う。


「あーでも、優秀な先生を招くとなると時間かかりそうだな」


 優秀な先生に教えてもらうことは確定である。

 が、優秀であれば他からも当然声がかかっているはずである。


「私の学園時代の友人に声かけてみますね。確か、魔術協会に所属していたはずだから」

「おお、ならすまないけどお願いするね」


 それから暫くサラティスは本の音読を披露した。

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