第33話「そうだ魔術具を作ろう」
「うーん。たいへんそうですね……」
サラティスは庭に目をやる。
マリーが鎌を持って草を刈っていた。
マリーは屋敷の掃除担当の使用人である。
しかし、マリーは掃除を行える箇所が限定的だ。
なのでマリーだけは例外的に掃除だけでなく、他の職務を割り当てられることがある。
庭担当の使用人はもちろんいるため庭の造形、整備に関してはそちらが、雑草を抜くことに関しては誰がやっても同じではあるので丁度手が空いたマリーに任された。
サラティスはマリーを注視していた。
マリーはドジであるのだが、人を巻き込んだり怪我をさせることはしていない。
それに転んで怪我、ぶつかって怪我はあれど刃物を持って怪我は見たことがない。
鎌を振っているが特に怪我をしそうな気配もない。
草の根を抜こうとして尻を地面に強打はしているが。
暇で思考が水の中でたゆたうように、あちらそちらにとりとめなく浮かんでいたが、思いついた。
思いついてしまった。
「なんかべんりな、まじゅつぐがあればね」
魔術ではなく魔術具である。
もちろんそれは自分がどうこうするのではなく、使用人の仕事が利便に、負担が減ればいいなと。
そして、誰もが自身のように魔術を使えるわけではない。
なら、魔術を開発するのではなく魔術具を開発。
サラティスは便利な魔術具を開発するために必要な魔術式を記憶の引き出しから取りだしていった。
サラティスは魔術の知見はあれど、魔術具は素人だ。
例外なのが剣である。
ネイシャ時代、ある時期からレクスルの装備の魔術式はネイシャが担当していた。
如何に敵を殺せるか。如何に仲間を助けることができるか。
魔力消費を如何に抑えるか。如何に魔術式を簡素にするか。
剣にはネイシャが作った魔術式を鍛冶師が剣に彫っていく。
なので実際の作成を目にしたのは装備のみで、現代に多く普及している生活の補助、暮らしを豊かにする魔術具の知識は皆無なのであった。
魔術の先生であるシェリーに聞いてみることにした。
庭でジェリドが水魔術の訓練をしている最中、試しにサラティスは聞いてみた。
サラティスは当然クリア済みでいつものようにジェリドの魔術を見ながら暇をしていた。
「しゅえりーせんせい、まじゅつぐをつくりたいばあい、どうしたらいいですか?」
「魔術具?魔術具は専門の職人と……って魔術具?作る?サラティスが?」
思わずサラティスの肩を揺さぶる。
「あーうー」
「あ、おほほほサラティス様大変失礼致しました」
「まじゅつぐはさっぱりなので、ちょっとしりたいなと」
「……一応、一応確認なので気分を悪くしないでちょうだい。魔術具とは何かしってるかしら?」
「まじゅつしきがくまれ、まりょくにより、こうかをはっきするどうぐですか?」
「大雑把にいえばそうね」
専門知識のない一般からすれば魔術を使える道具が魔術具の認識であり、一応正しい。
が、専門知識からすると魔術具でも種類で分けれらている。
魔術式を組み込み、使用者の魔力を込め発動するタイプ。
魔石を組み込み、使用者が魔力を込めなくても使え、魔石に魔力を込めれば継続して使えるタイプ。
魔石を交換し、使用者は一切魔力がなくても使えるタイプに分けられる。
世には魔力を一切持たない人間も少なからず存在する。
「なるほど」
サラティスは考える。
「因みにどんな魔術具を作りたいのでしょうか?」
シェリーは魔術具は専門ではないが、職業柄密接な関係のため一般人よりははるかに知識を持っている。
「くさをかるのと、つちをほるのです」
「……ですよね」
子供が魔術具を作りたいと口にすることはたまにあるものだ。
具体性はなく、かっこいい大人になりたい、すごい美味しいお菓子を作りたいなどと同じような微笑ましい類のものだ。
そんな子供では、具他的にどのような魔術具かと尋ねても返答はないか、何かすごい魔術具と漠然としたものだろう。
が、凡庸の欠片もないサラティスが言い出した。
具体案があるのではと思っての質問だったが案の定であった。
「くさをかるのは、つかうまじゅつしきはおおかたうかびました。つちは、まだばくぜんとしてきまってないです」
「だーもー」
マイペースなのはやはりアレシアの子だ。
「いいですか?単純に使用する魔術式を開発するのと、魔術具用に組み込む魔術式は似て非なるものですよ?」
「はい。なのでそこもふくめて、そうだんしたいのですが」
「……一応聞くけど冗談、私をびっくりさせちゃおう、てへ?なんて可愛らしい悪戯ではないのよね?」
「しつれいな。くさかりにくみこめば、つかえるものをつくりましたよ」
「……分かったわ。分かったから時間をちょうだい」
時間とは冷静に落ち着ける時間のことである。
日常の、自身が培ってきた常識というものが悉く丁寧に砕かれ、それから立ち直るには時間が必要だと初めてシェリーは知ることができた。
大人としては知りたくないが、魔術師としては知りたい。
神童の魔術具が世界をどう影響を与えるのか見てみたい。
「分かったわ。私は専門家じゃないから一度、セクドとアレシアに相談して問題なければ紹介してあげるわね」
「ありがとうございます……いま、わたしごせんふぇるならはらえますが、はらったほうがいいですか?」
五千フェルはこの間のワイルボロル捕獲作戦の協力の報酬としてセクドから貰ったものだ。
あれから屋敷の外……街までは出掛けてないため使う機会がなくそのまま残っていた。
「まったく。どこで覚えたのかしら?レザクターさん辺り?」
シェリーは優しくサラティスの頭を撫でる。
「赤の他人、仕事同士の付き合いなら紹介料は払うのが常識。まぁ、よほどがめつくなければいらん、で突き返されるでしょうけどね」
なにより、子供に金を請求するほど人間落ちぶれていない。
「いいんですか?」
「そうね……そしたら、私も混ぜなさい?」
「?」
「魔術具開発によ」
「もちろんです」
「ふふ、後で除け者にしたら恨むからね」
たかが端金に比べるべくもなく、サラティスが考えた魔術式の方が価値があるに決まっている。
セクドとアレシアに相談したところシェリーに負担がなければ是非お願いするとのことであった。




