第3話「宿屋の娘」
サラティスには記憶があった。
それはサラティスという赤子ではなく別の人間の。
ネイシャはある田舎の宿屋の娘として生まれた。
宿を手伝い、幼馴染のレクスルと一緒に遊ぶ日々を過ごしていた。
ある日、宿に珍しい客が来た。
戦士や魔術師などが集う戦闘集団だった。
魔族との戦いが本格的になり戦うために北に向かう旅をしていたそうだ。
ネイシャの母が指先を怪我し、うっすら血が出た。
その時魔術師が回復魔術で怪我を治した。
村には魔術を使える人間がいなかったため初めて見て感動した。
面白がった魔術師が試しにやってみるか?とネイシャに回復魔術を教えた。
魔族は魔法が使える。
人間は魔法が使えない。魔族に比べると魔力が少ないからだ。
人間でも魔法が使えるようにと開発されたのが魔術だ。
必要なのは魔力、魔術式の知識。
魔術式を用意し、そこに魔力を流しこむことで魔術は発動する。
ある程度熟練すると、魔術式を理解し、詠唱と呼ばれる呪文と紐づけることで、詠唱のみで魔術を発動できるようになる。
詠唱のみで魔術を発動できるようになると一人前の魔術師として認められる。
ネイシャはここで魔術に目覚めた。
後になって発覚したことだがネイシャは魔力の量が非常に多かったのだ。
魔術師もネイシャに才能を見出し魔術を習うことを進めた。
ネイシャには七つ年上の兄がおり、宿は兄が継ぐため魔術を習うために家を離れることが許された。
紆余曲折あり、レクスルと共に村を出た。
それが始まりであり、気づけば仲間と共に魔王を倒し英雄と呼ばれるまでに至った。
ネイシャは聖女ネイシャと呼ばれ魔術の天才、特に回復魔術におていは大陸最高と謡われた。
回復魔術は他の魔術に比べ多くの魔力が必要になる。
切り傷を治す程度なら不要だが、切れた腕を繋げるなど難易度の高い魔術には医学の知識も必要になる。
切れた腕を一時間で治すことができれば、国有数の回復魔術師と称賛される中ネイシャは数秒。
戦場で味方を次々治し、結果聖女と呼ばれるようになった。
魔王にとどめを刺したのはレクスルだった。
ネイシャのチームは戦士、魔術師、狙撃手、鍛冶師、情報収集の五人で組んでいた。
その内二人は戦闘要員ではない。
魔王は最後の最後に呪いとも言える置き土産を残していった。
近くにいたレクルスとネイシャは魔法をかけられた。
その結果二人は後にこれが原因で命を落とした。