第297話「どきどき」
展示物の準備なども終わり、少し緊張するがとうとう学祭が始まった。
サラティス達には校舎三階の教室を二つ貸し出された。
片方の教室に記録を展示している。
片方は実演する時のためにである。
掲示板に展示内容を書いた大きな紙も貼り付け、後は待つだけといった状況で、突如チュースやムルリンドウなど男性教員がやってきた。
「どうしたんですか?」
「諸君には悪いが移動してもらう」
「サラティスさん達の実験なんだけど、見たいって人が多すぎて教室に入りきらない恐れが出たみたいなんだ。なので急遽四階のホールに変更になったんだ」
なので男性教員が展示物を運びにやってきたというわけだ。
「さ、サラちゃんどうしましょう」
「エスちゃん、怖がることはないですよ」
エステリアは人の多さに身体を震わす。
サラティスも驚いてはいる。
発表会は十人、多くて二十人程度がやってくるのが平均的らしい。
だが準備を終え、ホールにやってきた参加者は既に百人近い。
「エスちゃん、こういう時はフィーナを見習うべきです」
「構わないけど、私だって緊張してるのよ?」
「ま、まったく見えないです」
「さすがに平常心でいるように見せる訓練はしているもの」
王族である。心と顔の離別ができなくてはいけない。
そしてサラティス達の説明が始まった。
拡散魔術で実験内容を読み上げる。
参加者たちは黙って一語一句漏らさぬよう、脳内に書き記していく。
所詮は学生の思いつく発表会。そう侮る人物はいないようだ。
「実際にやってみましょう」
一通りの説明を終え実演に入る。
ホールの端と端に移動し、中間地点に臨時で衝立を設置する。
この衝立が壁の役割である。
さすがに、雷球の中から聞こるか、ホールの端から大声が届くかの違いは聞けば分かる。
参加者達は半分に分かれ行く末を凝視する。
「『届いてますか』」
何度もやったことだ。エステリアはしっかりと拡散魔術を発動した。
「おお……」
サラティスが雷球を使うと参加者の声が漏れる。
そしてフィーナの立っている所まで雷球を連れ、移動する。
「届いてますか」
雷球を解除すると、元のエステリアの声より高くなっているが、確かに声が聞こえた。
耳を澄ませていた参加者達にもはっきりと聞こえた。
「おおおお」
皆結果に興奮し、声が湧き出る。
今度はフィーナの番だ。
「『届いてる?』」
フィーナは堂々と拡散魔術を発動した。
先と同様にサラティスは雷球で包み、エステリアの所まで戻る。
「届いてる?」
「おおおおお」
成功を確認できた参加者達は大きな拍手を送った。
そして質疑応答に移行する。
質疑応答の進行はチュースが行う。
「どうして、どうして思いつかなかったんだ……」
チュースに指名された最初の質問者は苦痛に満ちたような顔しながら、告白するかのようにつぶやく。
「ど、どうされました?」
「私は拡散魔術の研究をしてます。研究を始めて、今年で十二年になります。魔術式を弄り、声の届く方向を一度、変える所までは成功しています。が、複数回の変更がどうしても、うまくできずにいました。十二年です。十二年かけたのに、それを、それを休みの期間だけで……」
十二年。人間にとって短くない時間だ。この研究者の真似でなく、別アプローチではあるが、確かな成功例である。
費やしてきたからこそ、いろいろと滲み出る物があるだろう。
「すまない。質問ではないのなら下がってもらいたい」
混乱を避けるために、チュース以外の魔術に関心の高い教員は軒並み後ろに待機していた。
「取り乱して、失礼しました。私はこの拡散魔術の研究を長年やってきました。雷魔術という、別の魔術を併用した理由や、この手法を思いついたかなど教えていだけますか?」
質問は基本的にはサラティスが応答することになった。
サラティスは質問者をまっすぐと見据え、話し出す。
「ムートゥクル族という魔族をご存じですか?」
「……確かこの学園の蔵書館の?」
「はい。その方が本を運ぶ時に雷魔法を使ってたんですよ。本を魔法をで包んで運んだように、声を魔術で運んだらどうなるかなって思ったのがきっかけですね」
「そ、そんなことで」




