第263話「へたっぴとは心外です」
「サラ、どうだったの?」
「フィーナありがとうございます」
サラティスが自室に戻るなり、フィーナが駆け寄ってきた。
「あれ?エスちゃんは?」
「呼び出されたわよ」
「フィーナのお陰で一件落着ですよ」
「そうなの?」
サラティスは部屋の中に入り椅子に座る。
一息ついてフィーナに詳細を語る。
「良かったー。もう止めてよね」
「ごめんなさい」
「別にやったことは責めてないわよ。ろくに相談もしないで勝手に一人で動いたことに文句を言っているの」
「ふ、フィーナ!」
サラティスは思わず立ち上がり座っているフィーナを包みこむ。
「事前に言ってくれれば、いろいろ考えたわよ。特にサラは処世術が苦手なんだから。一歩間違えたら退学になってたのよ?」
「はい、気を付けます」
サラティスはルリレッタはすぐ手が出ると言っていたがサラティスだって似た様な物である。
一度感情の針が大きく触れると即行動に出る。
「でもいいなー」
「?」
「だってルリレッタ様に会ったんでしょー」
「あら、会ったことないんですか?」
「会ったことはあるのよ。でも私が生まれた時だから」
「あーまぁ、魔族の方は時間感覚が人間と大きく違ったりしますからね。そんなに会いたいんですか?」
「当たり前よ!だって我が国が誇る英雄よ?」
サラティスの肩をぶんぶんと振る。
「まさか、失礼な態度とったんじゃないでしょうねー」
「そ、さ、さすがにそんなことはしないですよ。仲良くお話させていただきましたし」
「そう、いいなー」
「ふふ、じゃ今度紹介しますよ」
「へ?」
フィーナはサラティスを見つめ固まる。
「フィーナ?」
「そんな迷惑なことしちゃだめよ。わざわざ私のためにそんな貴重な時間を使わせるなんて」
どうやら憧れは強いようだ。
「大丈夫ですよ。今度また会う約束しましたし」
「じー」
「な、何です?」
「サラって社交はへたっぴなのにどうして、仲良くなるのは上手なのかしらねー」
「へたっぴ?」
そつなくこなしているつもりであった。
もちろん上手だとは欠片も思ってない。
だが大きな失態もしていないので下手だとは思っていなかった。
「そうよ。ぎこちない感がすごいし」
そしてエステリアが戻ってきた。
「二人とも大変ご迷惑をおかけしました」
エステリアは頭を下げる。
フィーナは頭をあげたエステリアに、一切悪くないと擁護していた。
サラティスはほっとした。
入ってきたエステリアの顔を見てだ。
「エスちゃん、どうでした?」
「ドグレダさんから謝罪されました。この件は全て自分の責任だって」
「当然よ」
「後、退学すると」
「で、エスちゃんはそれに何と?」
「退学はしないでくださいと伝えました」
「エスちゃんはそれでいいのかしら?確かに彼は貴族だけど次男坊よ。退学させてもそこまで大きく影響はでないわよ」
「いいんです。いろいろ約束してくださいましたし。今後長いお付き合いになる、良いお客様に失礼な態度はできないですからね」
「ふっ」
何だかんだでエステリアが一番強かもしれない。
「サラちゃん、何で笑うんですか?」
「いえ、エスちゃんは立派だなーって」
「ふふそうね。こんな酷いことされた後でも冷静に利を考えて動けるなんてね。サラも見習ったら?」
「そ、そんなことありませんよ。二人ともご容赦を」
「因みに彼はどうしてこんなことしたのか判明した?」
「はい、説明して頂きました」
やはり真面目のようである。
「で、何だったの?」
「そ、それは……ごく個人的なことなので伏せさせてください」
「……」
サラティスは何となく察した。
「今後起きないんですよね?きちんと約束してくれましたか?」
「はい。誓っていただきました」
「そうですか」
これにて本当に一件落着だ。
後日例の騎士からもサラティスに対して正式に謝罪があった。
騎士個人への怒りや恨みなどは一切なかった。
あくまで障害物を排除する目的で対立しただけなのだから。
騎士当人も主人の行為を知らなかった。
隠蔽する意図などなかったと説明を受けた。
サラティスは謝罪を受け入れ、代わりに今回の一件を口外しないように求めた。
あちらとしても不祥事が広まることはよろしくないので二つ返事であった。




