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宿屋の娘は聖女と呼ばれ転生す  作者: 紅羽夜


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第20話「密室、男二人……」

「はぁ……」


 珍しくセクドは大きな溜息を吐いた。


「なぁレザクター」

「口より手を動かされては?と言いたい所ですが伺いましょう」

「私は本当に情けないな」

「?」

「私の能力が高く、領地の税収が問題なければサラティスはこんなこと言わなかっただろ?言わせてしまったのは私の力不足だ」

「そうでしょうな」


 セクドは戦闘能力は随一だし、王国内と広げても変わらずの力量だ。

 内政能力は天才ではないため、年相応。最もセクドが若いため経験不足は致し方のない部分ではあるが。


「私も一点。セクド様が誰にも相談もなく勝手にバインド家とサラティス様の婚約を交わしたことに異を唱えてましたが、今となっては私の間違いでした」

「うっ。反省してます……」 


 お互い第二子で領地に直接影響はでないから約束したのであって、何も考えなしにしたわけではない。

 レザクターが反対したのはバインド家は子爵だからだ。

 サラティスは女子であるため他の同格、また上の男子と結婚する可能性も秘めていた。

 なのでいくらなんでも、生まれた直後に子爵のしかも、領地を継げない第二子を決めてしまうのは早すぎる。

 セクドとアレシアの性格、事情を考えれば当人の意を無視して政略結婚で上位貴族に差し出すなどありえない。

 現に、あくまで婚約の約束であり当人達が適齢になり愛がない、別に結婚したい相手がいるのなら解消してよいと含まれている。

 が、ここに来て子爵であるからこそ好転した。

 領地の継承の細かな所は各領地による。

 領主にならない女性貴族は二つの身の振り方がある。

 一つ目は結婚した場合に相手の家に行くこと。

 他の領では第一子の男児が領主を継ぎ、第二子以降の女児は上位貴族との縁を作るためなど政略目的で結婚することが一般的だ。

 なので、自分より上位の相手なので当然そちらの家に行く。

 二つ目は自身の領に残ることだ。

 相手が領地を持たない家、女性の方が序列が高い場合、男性を自身の家に招く。

 サラティスの場合は後者になる。

 現時点で優秀なサラティスは将来数多の功績を残すだろう。

 その際どちらで功績を残すかだ。

 サラティスはリステッド領に残るのでこの地の発展は約束された未来が見える。

 レザクターはその未来を想起したので自身の意を修正した。


「惜しいですな」

「何がだい?」

「ふっ。私はもうこの歳です。神のみぞ知ることですが普通に考えれば後十年生きれるかどうか」

「……」


 もうセクドも子供ではない。そんな寂しいことを言うなよなんて言葉にできない。

 死を覚悟し備えている先達だ。敬意を、そして受け止める覚悟を。


「セクド様が若さゆえの暴挙でも起こさなければジェリド様が領主を引き継ぐのはかなり後になるかと思います。恐らくその間にもサラティス様は領を、王国に変革を齎しジェリド様より先に名を轟かせるかと。武のジェリド、智のサラティス。そう呼ばれ、安寧のリステッド家の時代を直接見たいと思ってしまいまして」

「……ジェリドは分らないけどサラティスが活躍するのは頑張れば見れると思うよ」


 親ばか視線ではない。

 四歳でこれなのだ。学園に通う頃には敏腕な領主と同様な格に育っていてもおかしくない。


「セクド様、サラティス様はお任せください。リステッドの宝は必ずお守りします。そして、願わくば限りうる経験を、御本人が望まれる未来を歩ませてあげてください。興味のないこと、嫌がるような分野を押し付けることは致しません。私の全てを教えたい」

「レザクターは部下がいるだろう?それに、最近弟子を取って育成し始めたんじゃないのか?君が選ぶってことは優秀なのだろ?」

「弟子には申し訳ないですが、サラティス様と比べればただの優秀。天才であるサラティス様には到底及びません。もちろん、弟子も一人前に育てます」


 そもそも、本来高度な専門知識を理解できるようになるには前提として学園を問題なく卒業できる知識を持ち、それなりに現場を知り経験も合わさらないと難しい。

 本来であれば、その年頃になればレザクターは死んでいる。部下を、見込みがあるものを弟子にとった。

 だが、サラティスの才をレザクターは推し量ることができない。そう思うほどの傑物。

 なら自身の知識を伝授することは叶うかもしれない。時間は有限、なら教えたい。サラティスなら知識を受け継ぎ、さらに越えていくだろうと信じて。


「……領主の機嫌をとるためのお世辞」

「……」

「普通はそうなんだろうけど、サラティスだとね。正直、父としては周りと同じように無垢な子供として育って欲しいと思ってる。うちは家族も少ないし、他貴族と交流もあまりない。領主として家を離れることも多い。寂しい思いをさせたくない」


 当たり前の感情である。


「でも、それは親の押し付けでサラティスにまだ見ぬものを、学びを挑戦させてあげることが一番良いのかもしれない。最近悩みの種だね」

「……申し訳ありません」


 セクドも愚かではないのだ。

 当然葛藤し悩んでいた。


「いいや、ありがとう。君のおかげでふんぎりがついたかもしれない。親として、領主としてこれからもサラティスを、ジェリドを、そして生まれてくる子を頼む」

「承知致しました。しかし、領主たるもの気軽に家臣に頭を下げるべきではありませんぞ」

「ふっ」


 予定が全て意味をなくしたが、軽やかな気持ちで二人は手を動かした。

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