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第196話「密室、男二人……」

 母娘が風呂に入り始めた頃である。

 セクドは仕事部屋の椅子に座っていた。

 一区切りついたので今日はこれでお終いと、机の上を整理していた。

 するとドアがノックされた。


「どうぞ」


 声をかける。

 ドアが静かに開く。


「休みなのに呼び出してすまないね」

「人使いの荒い領主様だな」


 ダヴァンはソファーに座り、机の上に空のグラスを二つを置く。

 セクドは二人がお風呂に入るのを見計らって事前にダヴァンを呼んでいた。

 セクドは隠していた酒を取りだし、グラスを満たす。

 カランとグラスは音を立てる。

 二人は酒を静かに飲む。


「で、用件は何だ?」

「分かりきってるだろ?何事もなかったか」

「……はぁ、聞いたのか」

「あたりまえだろ」


 セクドはさらに酒を飲んでから続ける。


「いろいろ聞きたいことはあるんだけど、奴隷の件で商人の護衛から剣を向けられたそうじゃないか」

「剣?」

「違うのかい?」

「あー正確には違うな」


 当時の詳細を語った。


「喜べばいいのかな?」


 流石我が娘である。

 いくら警戒していたとはいえ、魔術師と直接戦い無傷でやり過ごす。

 それだけでなく、適切に場を制圧した能力。

 誇らしくはあるが、貴族の娘には不要な能力ではあるのだ。


「お転婆って意味では華麗すぎたな」

「そういう訳じゃないんだけど……苦労をかけたね」

「むしろ、誰よりも楽だろうぜ」


 護衛対象が自ら危機を乗り越えられるのだ。


「で、どうだった?」

「このまま順当に育って学園卒業くらいになれば、リステッドの騎士トップになれるくらいだな」

「そうか……」

「なんだ、騎士のトップにすんのか?」

「するわけないだろ」

「正直言うが何をとっても一流だなありゃ」


 サラティスの魔術は速い。

 そして連発ができる。

 魔術師の弱点である、近距離もセクドが鍛えたおかげで、むしろ近接戦闘も強い。

 不意打ちでもない限り、サラティスが遅れを取る姿が想像できない。


「自慢の娘だからね。でも心はどう見えた?」


 いくら魔術の才があっても、叡智を備えていても、まだ子供なのだ。

 奴隷、犯罪など大人の、人間の黒く澱んだものを見てしまったのだ。

 本来であれば一切見せたくない、

 それは叶うはずもないので、心がもう少し育ってから知って欲しかった。


「立派だよ、何ならお前よりも立派だ」

「君がそこまで褒めるなんてね」

「当たりまえだろ。俺は腐っても料理人だぜ?自分を誤魔化す訳ないだろ」

「そのわりには僕に言うじゃないか」

「ほざけ」


 ダヴァンは笑いながら、セクドのグラスに酒を注ぐ。


「俺が大人で、サラティス様が子供で良かったぜ」


 あまりに輝かしい光は目を悪くする。


「ジェリドは大丈夫だよ」

「そう願うばかりだな」

「だってアレシアの子だよ?」

「その通りだな」

「所で契約外のことだから断っていいし、恐らくないと思うけど君は出張はどう思う?」

「……いいぜ」

「へ?」


 セクドは思わずダヴァンを二度見する。


「サラティス様の学園の付き添いだろ?」

「……アレシアの娘だからかい?」

「は。そういえば、俺の剣大将に直してもらったんだがよ」

「ん?」


 唐突に話の変更に戸惑う。


「最高の出来なんだよ。大将曰く大陸二番といってもおかしくないくらいだとよ」

「へー、それはすごいね。ということは腕の良い魔術師が工房に入ったのかな?」

「いや、魔術師は入ってねーと思うぜ。運悪く魔術師が不在のタイミングだった」

「?」


 セクドはダヴァンの剣を知っている。

 普段は倉庫に入れてあるはずだ。


「まさか」


 ダヴァンの意味深な笑み。


「まってくれ……確かにでも……」

「ははは」


 ダヴァンは悪戯が成功した子供のように愉快に笑う。


「サラティスは天才だよ。既に魔術具を作ったり、新しい魔術式を作るんだから。でも、あの作業は別なはずだよ」

「そうだな。だが大将曰く、うちで働くなら最高待遇で雇うとよ。恐らく王国一の鍛冶屋になるだろうぜ」

「つまり剣のお礼に出張に付き合うと?」

「いんや、別に剣だからじゃねーけどな」

「そうか」

「ああ、それに久方ぶりにネフィラスの逆塔行くのもありだなって」

「すまないね。もしもがあれば頼むよ」

「たぶん無いとおもうけどな」

「そうだね」


 恐らくアレシアが今頃サラティスに学園に誰か連れていくか聞いている頃だろう。

 そして二人の予想は否である。


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