第192話「帰る場所は大切なのです」
野盗や魔獣、魔族とのトラブルなど一切遭遇することなく、無事リステッドの土を再び踏みしめることができた。
「やっぱり帰る場所があるって素敵ですね」
「……そうですね」
「お、サラティス様も流石に恋しかったのか?」
「当然ですよ。会いたい人に、会えるなんてこれほど幸せなことはないですからね」
「……」
思わず二人は言葉を失う。
その言葉にはいやに実感が、心の底からの声であると感じられた。
子供がそのようなこと言うなんてと思ったが、大森林の一件を思い出し納得した。
そして家に帰ると号泣しながらセクドが迫ってきた。
ハルティックにせめてサラティスがお風呂に入ってからにしてくださいと引き離される始末。
久しぶりの家族での食事に少しだけ涙ぐむサラティス。
それを見たことにより涙を零すセクド。
そんな二人を嬉しそうに眺めるアレシア。
サラティスは久しぶりに遅い時間帯に目が覚めた。
普段であれば誰かが起こしにくるが、旅疲れを配慮してくれたのだろう、そのままにしてくれた。
「ロザリア、ただいまです」
「あーあ?」
最愛の弟の触れ合い。
使用人たちは微笑む。
サラティスはロザリアが握手した、返事をした、天才だと騒ぎ立てる様は両親と何ら変わらないからである。
正直な話、ロザリアはごくごく一般的な赤ちゃんである。
皆五、六年前を思い返しやはりサラティスが変わっているだけと認識したのであった。
そしてサラティスは溜まっていた手紙に目を通す。
まずはケイトだ。
当然だがケイトとの文通歴が一番長い。
事前に旅に出るのでしばらく返せないことは伝えてあるが、几帳面なケイトである。
その間もいろいろと送ってくれていたみたいだ。
「ふふ、ケイトは相変わらず人思いの優しい子ですね」
サラティスの頬が緩む。
内容自体はケイトの日常であり、たわいもないことである。
だが、ケイトの人の善さが十二分に伝わってくる。
「フィーナは……、おお、おめでとうございます」
フィーナからの手紙にはお茶会の感謝の内容や、とうとう回復魔術の無詠唱が成功したなどが書かれていた。
手紙以外に目を通す。
ワイルボロル関連、ササモ、孤児院関連の報告書など。
ワイルボロルの売り上げは順調に上がっていた。
懸念していたメル、ピーギーの価格や売り上げに関してはワイルボロルの肉が出る前よりは下がったが関係者が赤字になる、路頭に迷うほどではない。
下がり続けているわけでもないのでひとまず安心した。
ササモの生産は順調である。
驚きなのはショモナモルの売り上げである。
現状どの店も店頭で売ると一時間以内には売り切れるそうだ。
そして王宮からも外交の一つとして使いたいと打診が届いている。
残念なのは既にショモナモルを巡って逮捕者が複数名出たことだ。
ササモが安定供給できるようになったら、乾燥させ粉にした状態のササモの販売も考えている。
孤児院の動きが一番早く、概ねサラティスが提案した通りの情報、書類の管理も行われた。
本来であれば子供であるサラティスに知らせる必要のない情報だが、サラティスが大きく関与しているので、事柄や予算配分など伝えるべきであるとセクドが判断した。
忙しい合間を縫ってレザクターが専門的知識を教えてくれたので、計算以外の書類も読めるようになっていた。