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第19話「初めて言い切ることができました」

 翌日、サラティスはダヴァンと共にセクドの仕事部屋を訪れた。

 マリーは本来の仕事である掃除をしている。

 ジェリドは騎士に混じって日課の訓練をしている。

 セクドが仕事で直接指導できないときは騎士団と一緒に訓練している。


「おとうさま、サラティスです。おしごとちゅう、たいへん、もうしわけありません。すこしおじかん、いただけますでしょうか?」


 初めて言い切ることができた。


「サラティス様、セクド様は大事なお仕事中です。私用なら後にお願いできますでしょうか?」


 ドアは開かず、老人の声が聞こえた。


「レザクター、こちらのようけんは、りすてっどりょうの、みらいにかかわるものです」


 レザクターとはリステッド領の財務大臣である。

 レザクターはセクドの父の代から仕えており、セクドのお目付け役も担っている。

 レザクターがいたからセクドはドアを開けることができなかったようだ。


「なるほど、それは失礼しました。サラティス様お入りください。ん?ダヴァン料理長もか?」

「久しぶりですね、レザクターの旦那」

「それは?」


 ダヴァンはサッシュを持っていた。

 サッシュは金属性の丸い蓋である。皿の上に被せる。

 料理の温度、鮮度を保つために使われる。


「サラティス様の説明を聞いてやってください」


 とりあえず、サラティスとダヴァンは部屋に入ることだできた。


「おとうさま、レザクター、なにもいわず、こちらのステイルをたべてみてくだい」

「サラティス?」


 ダヴァンは蓋を取ると、皿の上には立派なステイルが鎮座し、ソースを身に纏っている。

 セクドの問いかけにサラティスは満面の笑みを浮かべるだけだ。

 セクドは馬鹿ではない。

 サラティスが森に行く許可を求めてきた。 

 ワイルボロルを狩るまでは聞いてた。そして、目の前にあるのは説明されることのない何かの肉。 

 つまりはそういうことだ。

 しかし、セクドは黙っていた。


「私もですか?」

「はい。じっさいに、たべればわかります」


 レザクターは真面目な男である。本来なら子供のままごとだと付き返す。がこれをしているのがただの子供でなく、あのサラティスなのだ。

 当然レザクターもサラティスの溢れんばかりの才能を、知性を知っている。

 ひとまず、言われた通り口にする。

 セクドはレザクターが口にするのを待ってから口にした。

 推測を黙っていた理由は万が一この肉がワイルボロルで味は変わらずなら、悶絶するレザクターの姿を見ることができるからだ。


「サラティス、何だいこれ?」

「どうだ、二人とも美味いだろ?」

「ああ、王都でもこんな肉はそうそう食べれないよ」

「確かに、個人的に私が後五、六歳若ければ毎日にでも食べても良いと思える味ですな」

「こちらはワイルボロルのステイルになります」

「はい?」


 レザクターは固まった。

 セクドは予想していたことなのでそこまでではなかった。


「失礼しました。ダヴァン料理長?」

「まぁ、サラティス様が発案された料理……調理法だな」


 ダヴァンは二人に調理法を説明した。


「これは素晴らしい発見だと思いますが、如何にしてリステッド領の未来に関わるのですかな?」

「りすてっどりょうの、ぜいしゅうがくが、ふえます」

「なるほど。確かにこの料理を出せばその店はそれなりに繁盛するでしょうね。ただし、そのレベルでは我が領に入ってくる額は微々たるものですね」

「ちがいます。もちろん、おみせでだすこともしますが、これがさいしゅうでは、ありません」

「ほう」


 セクドは内心うちの娘を論理的に指摘し泣かせるのではないだろうかとはらはらしている。


「まず、ワイルボロルをかちくとして、そだてます」

「……可能ですかな?」

「レザクターの旦那可能だぜ。ワイルボロルは単純に不味いから誰も手を出してないだけだ。こいつ自体は強くもないし、繁殖期だけ気をつけりゃ他の家畜化されている魔獣となんら変わらないぜ」

「かちくかすることで、ちくさんのしごとが、はっせいします。そして、これはじっけんけっか、しだいですが、えさはねいりすそうを、あたえます。わたしのかせつが、ただしければ、ねいりすそうでちょうりしなくても、おいしいにくに、なるはずです」

「確かに、ネイリス草の新しい需要にも繋がるか……」

「そうです。そして、そのにくをうったり、おみせでりょうりとしてだします。こちらは、たりょうから、おかねがながれることになります」

「新しい産業、雇用と経済活性化……」


 慎重に頭の中で吟味する。


「なるほど、さすがはサラティス様です。確かに新しい収入源になる可能性を秘めています。しかし、諸々の導入で起きる問題があると思いますが、そちらについてはどう対処するかなどは想定しておられますかな?」

「お、おいレザクターさすがにそれを四歳に求めるのは酷なのでは?新しい案を考えただけでも……」

「セクド様?」


 レザクターの顔が厳しいものになる。


「っ」


 セクドの体が強張る。あのレザクターのお説教モードだ。

 セクドもいい大人ではありこれが他の人間ならあ怒っているなで済むが、幼少期から怒られてきたのだ、体が反応してまう。


「ごほん、まぁそれは後でいいでしょう。話を遮ってしまい申し訳ありません、サラティス様続けてください」

「まず、ぜんていとして、ねいりすそうをえさにしたときのけっかで、かわるかとおもいますが、きぞんのおにくとのきょうそう、さいあくのばあい、すいたいです」


 これはネイシャの村でも実際に見たことがあった。

 酒屋が新しい酒を売り出した。他の酒屋が一気に売れなくなり、いろいろと問題が発生した。


「この、かいしょうほうとしては、ワイルボロルのおにくは、すこしおたかく、かかくせっていして、さげてうることは、きんしします」

「……つまりは、貴族向けの商品にすると?」

「ちがいます。そこまで、たかくはしません。りょうみんのみんなが、なにかのごほうび、つきにすうかいていどならかえる、ていどのきんがくを、そうていします」

「それはそれは……」


 レザクターは頭の中で計算する。


「ぜいしゅういがいにも、じゅうような、ようそがあります」


 ダヴァンはこっそりセクドを見る。

 おい、お前ついていけるのか?と。ただの料理人のダヴァンにはついていけない話である。

 セクドはなんとかねとこっそり目で伝える。

 本当か?と疑いの眼差しになる。


「まじゅうの、かちくかするというぎじゅつ、けいけんを、えれるということです。まじゅうは、しゅるいによっては、おなじところがないため、このけいけんが、おうようが、どこまでできるかはわかりませんが、やくだつはずです」

「家畜化の技術ですか。それは極少数の、畜産の一部の人間のみの恩恵で、領地として役立つとは言い難いかと」

「まだまだ、みらいのはなしですが、ほかの、まじゅうのかちくないし、ほご、かんさつなど、できるしせつが、できればとおもっています」

「……なんですかそれは?」


 昔村に芸人の団体が訪れたことがある。

 その芸は魔術を使わないもので、人間の鍛錬のみで行われるものだそうだ。

 玉の上に逆立ちでのり、ころばずにころころ周って見せたり、魔獣にも芸をやらせていた。

 魔獣は火の輪を潜ったりと、今でもその時の光景は鮮明に思い出すことができる。

 そこで魔獣の保護施設を作り、関係者だけはなく、お客を呼び入館料という形で収入を得ればいいのではと至った。

 魔獣の研究施設や保護施設は既にあるものだ。

 しかし、あくまで、関係者以外見ることは叶わない。この施設の存在を知った時見たいと思った。

 リステッド領には人を呼べる観光施設がない。

 観光業が発展、魔獣の研究も進む。魔獣が多いリステッド領ならではの強みになる。


「……」


 サラティスの想定、願望の説明が終わるとレザクターは椅子から立ち上がった。


「申し訳ありませんでした」

「れ、レザクター?」


 セクドも思わず動揺した。

 レザクターは頭を深々とサラティスに下げ謝罪をした。


「私は初め、思いついたことをその聡明なる頭脳でそれなりに、形にまとめあげたものと思い話を聞いていました。しかし、サラティス様は元より貴族として領民を、領地の未来を領主と同じように思い、考えまとめていたものでした。この決めつけは家臣として実に愚かなものでした」


 それは本来仕方のないことだ。

 専門家たちによる会議で出てくる意見と、子供の思い付きを同じ熱度、真剣度で聞く方が難しい。

 が、それはサラティスにとって侮辱であり、レザクター自身が許せなく子供であっても真摯に頭を下げた。


「そんな、おおげさです。ださんも、すこしはあります。おとうさま、おねがいが、ふたつあります」

「なんだい」

「ひとつめはせいこうして、おかねがはいるようになったら、すこしでいいので、おこづかいをください」

「へ?」


 想定外の言葉過ぎてお小遣いが脳を理解しなかった。

 しばらく考え比喩などではなく、純粋にお小遣いのことかと理解した。


「待ってね。お金をサラティスに渡すのは本来すべきことだからそこまで問題ではないけど……」


 これが他領で、サラティスが成人した貴族ならばどうだろうか。

 領内の新事業を興したとなれば、まず責任者となるだろう。

 収益から税を納める形で、一度収益は全て自分の所に入れる。

 それだけの権利がサラティスには発生している。 

 がセクドが戸惑ったのは父親としてである。


「サラティスはお金を貰ったとして何が欲しいんだい?」

「かみが、ほしいです」

「かみ?紙て文字を書いたりする?」

「はい」

「待って、待ってくれよ。……授業もあるから紙は定量あるはずだし、定期的に購入してるはず……。報告が漏れて足りてないってことかい?サラティスは紙を何に使う予定だい?」

「ちがいます。じゅぎょうは、もんだいなくできてます。あくまで、こじんてきにほしいのです。まじゅつのれんしゅうなどに、つかいたいなと」

「サラティス、魔術の練習なら紙をいくらでも使って構わないよ。悪戯じゃなく、きちんとした勉強で消費ならいくらでも買うよ」

「だめです」 


 レザクターはいくらでも買うと無考慮の発言を咎めよとしたが、サラティスが否定したのでやめる。


「このおかねは、わたしがまったくかんよしない、りょうみんの、おかねです」


 貴族の勤めを果たせるように勉強するために、お金を使う。

 これに関して正当性のある消費だろう。

 なので、授業で教わる分の内容で紙の消費は今のままでいい。

 サラティスが言いたいのは、授業でもなんでもない。教科書の内容でもない、役に立つかも一切不明。

 自身の欲求のためだけに魔術の研究をしたい。

 そこの費用はあくまで趣味なのだから、自身で払うのが正しい。

 むしろ、そこも税金から使うとなると後ろめたい。


「……」


 セクドは泣きそうになるのを我慢した。


「分かった。まだ何も決まったわけじゃないから、話し合って進めないといけないから、まとまりしだい教えるよ。もう一個はなんだい?」

「しさつに、わたしも、どうこうさせてください」

「はい?」

「くくく」 


 ダヴァンとセクドは思わず顔を見合わせた。

 あのレザクターが仕事中に笑ったからだ。あの仕事の鬼が声を出して笑うなんて見たことがない。


「サラティス、それはちょっと待って。危ないからさすがに……」


 重要な場面は自分も同行するが、それ以外の些細な箇所は領主が自らは不可能である。

 そうすると、可愛い可愛い娘の遠出はまだ、早すぎて認められない。


「セクド様、ちょうど私が税収関連で各街を周るのでそこに同席してもらいましょう」

「え?」


 本来反対しそうなレザクターが乗り気である。


「領主、父として我が子の安全を心配するのは分かります。ご存じの通り何も私一人で行くのはなく、他にも人間はいますし騎士もいます。不安要素は限りなく低いかと」

「……」


 セクドだって理解はしている。財務の最高責任者の移動だ。安全は高い。

 だが、父として納得ができないだけである。


「いやーまだサラティスにははや……」

「早いなどありません!この件においてのサラティス様は子供どころか凡夫の領主より優秀であられます。セクド様が一番サラティス様をご存じのはずでは?そのサラティス様が視察して内容を理解することが叶わないと?」

「そ、そんなわけないだろ?サラティスなら理解するどころから、問題があったら解決策を出してもおかしくないぞ」

「そうでしょうとも、なら視察をお認めになりますな。まさか、子供でもあるまい大人が寂しいからなどごくごく個人的な感情を理由で拒否しているなんてありえないですからな」

「うっ。……サラティス、いいかい?絶対レザクターの言うこと聞くこと。どんな時でも一人きりになることがないようにすること、見知らない大人にはレザクター初め周りの大人にまず対処してもらうこと……」


 セクドの未練がましい注意に素直に返事をするサラティス。


「サラティス様、諸々準備が整いましたら、再度お声をかけさせていただきます」

「おねがいします」


 サラティスとダヴァンは部屋を出て行った。

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