第189話「ごっくん」
従業員は端から魔術具を起動した。
コココココ達は気にせずに餌を食べている。
通路に合わせて並べられた魔術具から水球が次々と放出される。
それはサワランダーのお店で見た床を掃除する魔術具を思い出させた。
水球はコココココが零し通路の床に落ちた餌や、埃、コココココの抜け舞い落ちた体毛や羽を飲みこみころころと転がっていく。
通路の端の床が少しカーブし、下に丸い穴が開いており、水を外へ排水できるようになっていた。
店で見た水球は魔術具に戻ってきたが、こちらの魔術具の水球は戻ることなく、排水された。
「普段の掃除は後排水周りを掃除して終わりになります」
サラティスは再び、応接室に戻ってきた。
「すごかったですね」
「大型の農場ならではですね。サラティス様はああいった魔術具を導入なさるおつもりですか?」
「うーん。でもこちら農家さんの農場は規模が小さいですからね」
「なるほど、確かに費用が回収できないかもしれませんね」
こういうところだ。
目を輝かせ興味津々に魔術具を観察していた。
屋敷の人間なら誰しもが魔術、魔術に関連するものが好きなことを知っている。
しかし、それに反しいやに現実的なのだ。
憧れの手前に現実を置く様は子供とは思えない。
「お二人は生は平気ですか?」
「はい、平気……ハルティックは?」
「私も平気ですが……」
コタルダは手のひらサイズの小皿に卵を割り入れる。
「こちらご試食如何がですか?」
「いいのですか?」
「はい、あ、安心してください。貴族様だからではなく、普段から見学者の方にやっているサービスなので」
「なるほど……」
サラティスはハルティックに確認する。
ハルティックは視線で合図する。
目の前で割られた卵である。
何かを混ぜられるような危険性は少ない。
「あ、確かに色が濃くて匂いも爽やかです」
サラティスは口に入れる前にしっかり、見た目匂いを堪能する。
「……美味しいです」
サラティスの絶賛にコタルダもにこやかに笑う。
色々と感謝を述べ二人はコココココ農場を後にした。
お次はワイルボロル農場を目指す。
街中を探索しながら進んでいると、喧騒が二人に襲いかかる。
「どいてくれ!」
「脱走だー」
「サラティス様」
混乱によりもみくちゃにされる。
サラティスはハルティックにより直接誰かに突き飛ばされることは防げたが、目の前の人にぶつかり、その人が転んだ。