第183話「センスに託す」
「初期作成で作成数の数を増やせば十万フェルでも行けるかもしれませんね。でも売れないとかなり赤字になりますが」
「それは飲むしかないですね」
「廉価版はあーどうしようかなー……」
設計図に書き足していく。
「あ、でもこの機構減らせばいけるか?」
熱風は三段階、強、中、弱と変更することができる。
これは魔術式で制御しているのではなく、熱風を出す機構で制御している。
そこの設計を減らすことで対応できないか計算している。
「理論上はいけます。だけど、実際の所は作ってみないと分かんないですね」
「なるほど、お願いします。因みに三段階ってことは廉価版二種作れますか?」
「可能ですね。値段を段階別は確かに分かりやすいか」
「宜しくお願いします」
「あ、そうだ。名前はどうします?」
「髪乾かし器じゃだめなんですか?」
「サラティス様」
「あーそれは止めとけってシェリーが」
ワイビーも名前など何だっていい。
分かりやすいからこれでいいだろうと思っていた。
だが、シェリーが絶対に流行らないから止めろと言ってきたのだ。
この場でその感性を持っていたのはハルティックのみのようだ。
「……熱風……あ、乾燥器はどうですか?」
「あー火魔術使った魔術具で似た様なのあった気がするので避けた方がいいかな」
「むむ」
「ハルティックー何かありませんか?」
ハルティックのセンスに託す。
「そう言われましても……髪を綺麗に乾かすので美髪器は如何でしょうか?」
「それです!それそれ」
サラティスはハルティックの両手を両手で包み込む。
手の大きさからして実際は包み込まれているのがサラティスになっているが。
「ワイビーさん、美髪器でお願いします」
「サラティス様宜しいのでしょうか?」
ハルティックには魔術具の真価は理解できない。
サラティスが作っているものは便利で、シェリーが絶賛するほど高等な技術であるということだ。
流行を作るかもしれない程の魔術具に自身が思いついた名など与えてよぃのか。
「もちろんです。絶対売れますよ」
サラティス自身センスがあるとは思っていない。
だが名前の重要性には十二分に知っているつもりだ。
宿で出していた料理の名前を少し変えただけで、大きく売り上げに左右したことがある。
良い物であれば売れるが、良い物だと知られる手段に名前はかなり割合を占める。
ワイビーは美髪器の試作を片づける。
「ところで、今何か新しいこと考えてますか?」
少年のように目を輝かせている。
「光魔術で新しいことできないかなーとか、水魔術でちょっとできないかなーとかぼんやりはありますが、具体的には何かあるわけじゃないですね」
「王都に住まわれたらどうですかね?」
「もうじき王都の学園に通うのでその間は王都にいますよ」
「な、それは楽になりますね」
「サラティス様、魔術具関連のやりとりでしたら、セクド様にも報告はお願いしますね」
「分かってますよ」
ワイビーとのやり取りは確実に魔術具関連の内容のみである。
大金が絡むこともあるので、当然セクドとアレシアには見せている。
だがこれからは届いた手紙を手渡しはできないので送る必要がある。
「では、ボクは戻って作り直しますね」
「すみませんが、宜しくお願いします」