第180話「警戒」
嘘には嘘の応酬を。
ダヴァンには確信があった訳ではない。
だが、経験上こういった輩は素直に話すことの方が珍しい。
それに二人でこういった襲撃をしているのなら、この男の力量が余りにも低すぎて成功しているとは到底思えない。
なら最低でも、三人か四人で活動しているであろう。
なので嘘という剣を心に深く深く突き刺した。
男は嘘を嘘だと見抜けず、素直に白状した。
「二人だ。一人が矢で遠距離で牽制。もう一人が後にいて、逃げた時のために控えてる」
「そうか。失敗した時の算段は?」
「死んでなけりゃ助ける取り決めだ」
当然サラティスにも会話は聞こえているのでより後方の警戒を強める。
しかし、誰かがやってくる気配はない。
「可哀想にな。見捨てられたなこりゃ。因みにお前らの仲間に魔術師はいるのか?」
「い、いない」
この状況で仲間を助けるとしたら矢で襲いながら隙を見て、後方の仲間が斬りかかるくらいしか手はないだろう。
恐らくだが、初手のサラティスの魔術を見て逃走を判断したのだろう。
「あーどうすっかな」
ダヴァンは男を気絶させる。
「サラティス様大丈夫でしょうか?」
ハルティックは真剣な表情でサラティスを伺う。
「大丈夫ですよ」
「……気分が優れないようでしたら、領に戻る選択もありますが」
サラティスは一度誘拐されている。
初めて領外に出掛けた際に起きた出来事。
使用人一同、心に大きな傷を抱えたと丁寧に扱うことになった。
サラティスとしては、ケイトが死にかけたのでその事に焦りはしたがそれだけである。
自身が攫われたことに特に何か思うことはなかった。
だが、その言葉はサラティスが気丈なフリをしていると捉えられていた。
「ありがとうございます、大丈夫ですよ。実害がないのですから」
「ハルティック、それこそこの後大好きな魔術談義ができるんだ。そっちで気を晴らしてもらった方がいいと思うぜ」
「……承知しました」
「ダヴァン、どうするかとはどういうことですか?」
「こいつだよ」
「騎士に突き出せばいいのでは?」
「サラティス様、どちらの領の騎士にだ?って問題になる」
「あ」
ここは空白地帯。
騎士の活動外である。
「知らずとはいえ、貴族への襲撃。斬捨てたところで問題ない」
一番楽なのはこの場で殺して進むことだ。
後々この男の死体を誰かが見つけたとして、野盗が死んでいると問題にならないだろう。
殺さずともこのまま、放置すれば魔獣に食われるか、餓死でもするだろう。
「逃がすのは当然ダメですよね?」
被害らしい被害は被っていない。
それに目撃者も自分達しかいないのだ。
殺すはやりすぎだと思う。
「ああ。次の被害者が出るかもしれないだろ?」
「では面倒ですが、そのまま連れて関所に突き出しましょう」
「分かった」
「それでこちらが捕まるなんてことはないですよね?」
「ああ、それはもちろんそうだ。無傷で突き出す訳だしな」
そもそも野盗の死体を突き出したところで、貴族に食ってかかる騎士などそうそういないだろう。
ダヴァンはホンスに男を荷物のように乗せ警戒しながら進んだ。
逃げ出した仲間が襲ってくる可能性があるからだ。
ホンスが地を駆ける。