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第18話「神童サラティスの独り言」

「そ、それが不味いお肉なんですね?」


 調理場に入るとサラティスの頼みごとを終えたマリーが待っていた。


「サラティス様、これくらいあれば十分ですか?」

「ありがとうございます」


 マリーが籠いっぱい草を渡す。


「これりゃーネイリス草じゃねーか。ま、まさか」


 ダヴァンはなんとなく想像できた。

 ネイリス草は食用の葉である。女性や、怪我人が口にする葉だ。

 効能として血を増やすと言われいてる。なので、月のもので貧血になりやすい女性、血を流した怪我人が仕方なく口にする。

 味はまさに血のような生臭いような味で好んで食べる人はそうそういない。

 味だけでなく、加熱すると血を増やす成分が抜け出して効果が無くなるので、基本そのまま口に入れるのが食べ方だ。


「ダヴァン、ちいさくきったおにくと、ねいりすそうを、やく、にる、あげたりしてみてください」

「あいよ」


 ダヴァンは肉を一口サイズに切る。

 しばらく考えて、先に肉を焼き、ある程度火が通ったら細かく切ったネイリス草を入れる。


「こ、これ食べれるんでしょうか?」


 マリーは何とも言えない顔をしていた。

 ネイリス草に火が通り、しばらくしたら何ともいえない、調理場でかぐことがないような独特な匂いが漂いはじめたからだ。


「これで完成だな。あーマリーいくぞ」


 当然ジェリド、サラティスより先に食べるしかないからだ。


「う、ん?」


 マリーはまゆをひそめた。


「……食えないほっうあ」


 男ダヴァン口から中身を吐き出しそうになったが気合で我慢する。

 調理実験において共通の被害者であるジェリドは気をきかせて水を用意しており、コップを渡す。


「たすかるぜ。こりゃーなんだ?」

「たべてもいいですか?」

「あ、ああ。一応吐き出していいからな? 行儀を気にして体調不良になられても困るんで」

「うえー」

「なるほど……」


 ジェリド撃沈。今まで微妙な味のものはあったがここまで拒絶反応を出すものはなかった。


「マリーは平気だったのか?」


 ダヴァンは気合で飲み込んだが、マリーはそこまでではないようだった。


「ダヴァンさん、なんか味が変でした」

「そ、そりゃそうだろうさ」

「ちょっと不味いところとうえってなるところが混じってる感じでした」

「なるほど?」


 確かに口に入れて数秒間は吐き出しそうになるほどじゃなかった。


「サラはすごいな。不味くないのか?」

「まずいですよ……」


 サラティスは安定の完食。

 そもそも不味くても、食べ物なのだ感謝して食べきるのが礼儀だからだ。


「あじがまばら……とけだしたせいぶんで、きえるのはかくじつ。にたほうがいい?でも、みずにたいして、りょうがないとにくにしみわたらない?……」

「「「……」」」


 神童サラティスの独り言。

 この三人は見慣れた光景である。明晰な頭脳をフル回転させているようで、話しかけても気づかないため考え終わるのを待つ。


「ダヴァン、もうしわけないですがやくまえに、おにくをねいりすそうでつつんで、やいてみてください。あと、ねいりすそうをさきににてから、そのおゆでにくをにこんでください」

「あいよ。あ、お二人とも肉包むのやってみます?」

「もちろんです」


 サラティス、ジェリド、マリーの三人は試行錯誤しながらネイリス草でお肉を包んでいく。

 その間にダヴァンは煮込みを進めていた。


「ひとまずあとは待つだけだな。お、これ綺麗にできてるが誰んだ?」

「わ、私です」

「マリーのか意外だな」


 ダヴァンは包まれた肉を確認する。三者三様の肉だった。


「おし、これくらいでいいかな?」


 ダヴァンは肉を取りだし、包丁で器用に葉を切ってはがす。


「え?嘘」


 口に入れたマリーは目を大きく開く。


「……うぉ、な、なんだと……」

「二人とも、どうなんだ?」

「は、お二人もどうぞ」


 マリーが肉を差し出す。


「お、美味しい」

「さいこうなけっかですね」


 先程までの独特な味は一切消え、肉の美味さそして脂がとてつもなく食欲を加速させる。

 結果として美味いが理解ができないダヴァンは頭を抱えていた。


「サラティス様、いったいどういう原理で?」

「よくわかりません」

「は?」

「まじゅうのにくりょうりをだすなら、かずがたくさんいるかやっかいで、しょうひんかちがないしゅるいのがいいとおもいました」

「確かにな」 


 商品として流通してないため原価が限りなく低い。

 それに競合相手がいないので流行り、真似されるまでは独占できる。


「で、ずかんをしらべたかきり、ちょうみりょう、こうそうとまぜでてもたべれなかったようで、やくそうなどちょうりにつかわれないのは、どうなんだろうっておもいました」

「不味いのに不味いのを足して美味しくなるなんて普通は思いつかねーしな」

「それにやくそうはしゅるいによってはこうがくだったりして、ちょうりにためしずらいですからね」

「で、ネイリス草を選んだわけは?」

「ねいりすそうはりすてっどりょうで、せいさんりょうがかなりおおいやくそうです。まじゅうのひがいがおおきく、たくさんけがにんがでたときいがい、たいりょうしょうひされないです」


 そして、ネイリス草は稀少なものでもなく、どこでも育てることができるため他領に売れるようなものでなはい。


「確かにここはネイリス草は育てるのは義務だしな」


 過去の領主が、もしも戦争が起きた時の備えとして一定数の生産を領令で定めた。

 ネイリス草は一年で育つ葉だ。放置すると冬の間に枯れる。

 摘んだネイリス草はきちんと管理、保管すれば三年程度は保存が聞く。


「どちらもほうふで、つかいみちがいまない。しょうきですよね?」

「はははは、御見それしました」


 少しだけサラティスは噓をついた。

 ワイルボロルとネイリス草を組み合わせれば食べられるようになるかもしれないことを知っていた。

 ジェリドからワイルボロルの名を聞き思い出したのだ。

 昔、まだネイシャとレクスル二人で旅をしていた頃だ。

 ある山で野宿していた時、食べるものに困りワイルボロルを仕方なく食べることにした。

 この頃は食事は速やかに効率よく栄養を接種するだけの行為であった。

 レクスルは悶えながらワイルボロルを胃の中にしまい込んだ。

 ネイシャは不味いのは一度で済まそうとワイルボロルとネイリス草を一度に口に突っ込んだ。

 不味いがレクスルほどではなかった。

 この事を思い出し、ネイリス草の成分が作用してワイルボロルの肉をましにするのでは?と仮説を立てた。

 結果はその通りだった。

 焼いてる途中にネイリス草を入れた肉がいまいちだったのは成分が肉に均等に入らなかったのだろう。

 しばらくして煮込みの肉が完成したが結果は残念だった。

 成分が水に溶けだしてワイルボロルの肉にまで浸透しなかったのではないかと結論づけた。


「ダヴァン、あしたこのおにくをステイルにして、おとうさまにだしてもらえますか?」

「おう、まかせとけ」


 ダヴァンに明日の作戦を伝えた。

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