第177話「旅の醍醐味」
店を出ると街の様相は茜へと変貌していた。
頭頂部を突き刺すような光は足を染める。
「もうこんな時間ですよ」
「早く終わって良かったじゃありませんか」
「へ?」
「服の種類によっては、数日掛かりな場合もありますよ?」
「うへー」
「今日のご飯はどうしましょうか?」
「夜ご飯はそうですね……あ、あそこはどうですか?」
「……旅なので経験が大事なのは理解できます。しかしどうしてサラティス様はああいったお店を好まれるのでしょうか?」
「駄目ですか?」
「いいえ。駄目ではありません。ですがこれから先、御学友とお店に行くとき選ばないように気を付けてくださいね」
「どうしてです?」
「サラティス様に慣れている方であれば気にしないでしょう。しかし、貴族として確固たる矜持をお持ちの方は、こういった貴族と縁の乏しい店を紹介されたら侮辱されたと感じる方もおられます。それに、本人は良くても親族の誰かが文句を言う場合もあります」
「えー……」
そんなの個人の自由でよくないか。
行きたくなければ行かなければいいだけで、怒ることではないだろう。
学園生活がとっても不安になるサラティスであった。
サラティスが入った店は大衆食堂であった。
「いらっいらっしゃいませ」
店員も思わず二度見した。
サラティスを見てた。
子供か、否、貴族の子供だと。
「ここは平民のしがない食堂です。貴族様が御不快になる可能性がございますが……」
「大丈夫です」
二人は席に案内された。
食事を頼み暫くすると、店員が食事を提供する。
「サラティス様、どうしてそれをお選びに?」
「だって気になりますよね」
「リステッドで好きなだけ食べれますよね?」
「違いますよ。同じ料理であっても地域で違いがあったりするものですよ」
「なるほど……」
言いたいことは理解できる。
だが旅が初めてのサラティスがこうも言うのはどうなのだろうか。
発言者がサラティスなのでそこまで気にせず受けいれる。
サラティスが頼んだのはワイルボロルのステイルだ。
飴色のソースが肉を彩る。
ナイフをその柔肌に突き立てる。
ナイフは抵抗することなく、すーっと肉に吸い込まれる。
肉の断面から透明な脂が溢れんばかり飛び出す。
一口サイズに切り分け、その可憐な口に運び入れる。
「美味しいですね」
肉質はリステッドで食べる物とほぼほぼぼ違いはない。
あげるとするなら、少しだけ噛み応えがあるくらいだ。
そして味だが、これまた興味深い。
リステッドで食べる物より少しピリピリする感じがする。
香辛料が混じっているのだろう。
これで目的は済ましたので明日出ていくかどうか相談した。
結果的に明日一日は街を周って次の日にナンタルダートに向かうことにした。