第176話「いい案だと思ったのですが」
アレシアがシェリーに良い店がないか相談した。
シェリーは馴染みの店に連絡を入れ繋いでくれた。
ザバラット家からの、常連客からの紹介である。
元より質の良い接客にも熱が入るのも頷ける。
サラティスは立つ、座る、お辞儀する、歩くなどひたすら要求に応える。
どの生地が良いか。
どの色が良いか。
その問いは全てハルティックが答えた。
正直な話どれでも良いからだ。
ここでようやくサラティスにも興味が湧く話題になっていった。
袖などに施す刺繍のデザインについてだ。
どのような入れ方など相談している時ふと思った。
あのとてもともて愛くるしい一族を。
そして、あの森の中であるというのに技術の高いのであるということを実感した。
「次はデザインですが何を入れますか?余程奇異な物でない限り自由に縫うことができます」
「あ、ワイルボロルの顔はどうですか?」
「ま、魔獣ですか?」
従業員も思わず聞き返す。
「サラティス様、ドレスです。先程から見せていただいた見本の中に魔獣のデザインは存在していません。つまり、そういうことです」
「でも、意外とありかもしれませんよ。だってリステッドの特産。リステッドを象徴し、名を売るうってつけの機会ですよね」
「……確かにサラティス様には商才がおありです。商人などが開くパーティーであれば、実に有効でしょう。しかし、サラティス様が参加されるのは貴族の社交界の場。格好の餌食になりますよ。そして、裏でリステッドはと嘲笑されるでしょう」
「うっ、そこまでですか?」
珍しい服を着ているでは駄目なようだ。
幾月経っても貴族の女性とは変わらないようだ。
あの時はこの場限りだからと我慢することができた。
「あ」
サラティスは突如大きな声を出す。
「魔術式て縫えます?」
「へ?」
「はい?」
今度は従業員とハルティックどちらも声が漏れた。
「そ、そのような事は試したことがないのでさすがに……」
分からない。
「ああ、でも一度使ったら糸は駄目になる?それとも、糸を一定強度に保てば使い捨てにならない?いっそ糸そのものに書ければ……」
ハルティックはサラティスを放置して、従業員にデザインの要望を伝えていく。
「あれ?」
サラティスがふと見ると刺繍の話などとっくに終わっていたようであった。
「袖周りの布について相談していました」
「そ、そうですか」
「今回はあくまで一般的なドレスなので」
「わかりました」
それから一度昼休憩を取り、結果夕方まで採寸は続いた。
「凡そ三ヶ月程で完成見込です。ご自宅にお届けで宜しいでしょうか?」
「はい、お願いします」
ハルティックが粛々と進めていく。
「ハルティックお金は?」
「アレシア様が支払い済みです」
「そ、そうですか」
相場は分からないが絶対に安い買い物じゃないはずだ。
「遠慮なんてなさらないでください。それこそ、アレシア様が悲しまれますよ」
サラティスは魔術具の収入があるので自身の身の回りの金は、自分で払っている。
だが、アレシアとしてはそれは寂しい。
幼いながら自立してくれるのは、経済状況を考えると有難い。
しかし、親としては情けない。
それにものすごく寂しい。
サラティスの学園にかかる費用が丸々浮いたのだ。なら、そのお金は全てサラティスの他のために使おうとセクドと相談し決めた。
勿論ただ高ければ良いとは考えていない。
だが、サラティスはフィーナと親しくしているし、また何か偉業を達成し王宮に呼ばれることだってあるであろう。
ならそれに見合うだけのドレスが必要だと判断した結果がこれだ。
サラティスの試練はようやく終わった。