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第171話「手術開始」

 本来であれば治す手立てがないため、手術することなどありえない。

 だが、治る可能性があるのなら、手術する意義もある。

 しかし、医者の数がないと手術ができないこの状況を一人でやると言っている。

 これが公爵の前でなければ、少女には頭の医者を紹介していただろう。


「なら、賭けてみましょう」


 そもそも、治療の大前提にサラティスがいなければ成り立たなかった。

 患者自身もいいと言っているのだ。

 なら、未来の可能性に賭けるのは悪くない。

 そう判断したノスタッチは指示をする。

 二人の医者はありえない光景を見守る。


「ソラクドさん、痛みを感じないように麻痺させますね」


 サラティスはソラクドの首元を触る。

 そして、ソラクドの意識は消える。

 おかしい。

 本来ではあればそれも医者の役割ではない。

 この状況で口を出せなかったがそもそも、どうやって手術用ナイフが無いのにどうやって胸を切開するのか。


「あ、あ」


 医者は音を漏らす。

 目に入る光景が脳が処理しきれずに明確な言語を発せずに、感情が漏れる。

 サラティスは風魔術で器用に胸を切り裂く。

 ありえない。

 人間の体内は繊細である。

 髪の毛一つ分間違って切ってしまうだけで、死に繋がる場合もある程デリケートだ。

 魔術を制御するのはとても技術がいる。

 それを切開に使うなど絶対にありえない。

 ソラクドの胸は裂け血が伝い溢れだす。

 切り裂きながら、広がっていく。

 そして、骨が見える。

 サラティスは光魔術で体内を照らす。


「は?」


 医者は自然とサラティスの横に立っていた。

 その手元に吸い寄せられるように。

 回復魔術が発動した。

 それで解決はしなかった。

 サラティスは肺の一部を指でなぞる。

 なぞり終えると肺の表面の一部が切り取られた。

 指に這わせて風魔術を使った。


『ジュ』


 という音と共に焦げた匂いが漂う。

 火魔術を使い、切り口をくっつけた。

 そしてすぐさままた、回復魔術を使う。


「何故」


 あまりに小声でサラティスには届かない。

 サラティスはその細い腕を器用に、慣れた手つきで切って開けた穴に突っ込む。

 臓器を傷つけないようしながら、間を通し腕を奥へと。

 爪一つ程間違えば、重大な事故に繋がる可能性がある。

 それよりも体内に腕を入れるという行為。

 医者であっても心地が良い物だと言えない。

 むしろこれが心地よいと感じるのであれば、異常者であろう。

 それだけでない。腕などが血で汚れることに一切躊躇いがない。

 リステッド家は辺境伯である。

 クスナ家と比べれば下であるが、国内の貴族としては上の方であることは間違いない。

 そんなご息女が血で汚れているのだ。

 ありえないの光景の連続である。

 当のサラティスも腕を入れることには好きや興味も微塵もない。

 外傷で肺が傷ついたのであれば、影響範囲の予測は容易だ。

 だがそれ以外の要因で肺が傷ついている場合、切開した側と反対側の傷が見落とし易くなる。

 手の感覚だけで傷があるかを確認する。

 そのために腕を入れているのだ。

 サラティスは手を引き抜き切開した傷を回復魔術で治していく。


「これで終わりですね。輸血をお願いします」


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