第168話「見極める目」
「これは老婆心からの忠告で、私がこれらの行為は一切しないと宣言するよ。もし、これが私ではなく、少し悪辣な貴族であれば、契約をしてないから知らない。と情報だけ盗まれることもあるかもしれないよ?」
「ご忠告ありがとうございます。十分理解してます。トクラスタ様の御父上ということだから、問題ないと判断したのです」
「ほぅ。具体的に聞いても?」
穏やかな顔から鋭い視線を突き刺す。
相変わらずの笑みだが少しばかり先程と雰囲気が違う。
決して脅したり威圧は一切感じないが。
興味深く、冷徹に価値を見定めるかのようなそんな視線。
「トクラスタ様は最後の要望に関してお怒りになりました。貴族としての誇りをお持ちだからこそだと思います。御父上が目先の金に目が眩むような浅い人物であれば、誇りなどお持ちにならないかと」
「ははは、それは嬉しいですね。愚息は少々加減が苦手でして。相手に必要以上に威圧を与えたり、苦手意識を持たれることが多々あるのですよ。ですがそのように評価してもらえるとはね」
「……」
「確かに君は平凡な貴族の娘ではなさそうですね」
「そんなことありませんよ。私なんて何処にでもいる世間知らずの娘ですよ」
「ははは、本当に世間知らずであれば、世間知らずであることすら認知できないものですよ。なら、ありがたくうちの医者達に鞭撻のほどをお願いしよう」
「承知しました」
「それと、君の要望だが確認できしだい、結ばせてもらおう。基本的には全て承諾するが、最後の一つだけは少し条件をつけてもいいだろうか?」
「最後というのは秘匿に関してですか?」
「そうだ。当然だが、このような偉業だ、全て要求は叶えるつもりだ。だから、公式の場においてリステッド家の名を出すことはしない。だが、王にだけは個人的に事情を説明してもいいだろうか?」
「……」
「王とは個人的なやりとりをしたりする関係でね。幸いそういった融通は理解してくれる。あくまで、個人的にこっそりとだ」
「……分かりました。それをきちんと明記してくだされば問題ないです」
確かにお茶目なあの王であれば汲んでくれて、黙っていてくれるだろう。
「そうか。金銭は不要と断ったようだが、本当に不要かい?」
「はい。私が何かをした訳ではないので。それに、私はお金の為に治療薬を広めようと思ってないので」
「……」
クスタフドは立ち上がり、机の引き出しから何やら紙を持ち出してサラティスに渡した。
「これは?」
「それは許可証だ。それを見せればクスナ領から出る船に自由に乗れる。そして乗船にかかる全ての費用の免除。期間はサラティス・ルワーナ・リステッドが死ぬまで有効だ」
「い、いいのですか?」
懐かしいものだ。
当時も船乗り達から感謝され船に乗り放題だった。
「この程度些細なことだ。金銭だけならば本来であれば、かなりの額を支払うべき事案。むしろ受け取ってもらえてほっとするくらいですよ」
「因みになんですが、これは私だけですか?付き添いは……」
「勿論、使用人なども含めてで問題ないよ。ただ、犯罪行為に利用されたらさすがにこちらもそれ相応の対応をするので悪しからず」
「当然です、そんなことにしませんよ」
そもそも、当面自分は学園で無縁の生活になるであろう。
「そうか、なら魔力を」
紙には契約魔術がかけられている。
サラティスが魔力を込めると紙は淡く光り魔術が発動した。
「さっそくで悪いが午後から指導を頼めるかい?」
「喜んで」
クスタフドは立ち上がる。
「改めてクスナ領、領主としてサラティス・ルワーナ・リステッドに感謝する」
頭を下げる。
公爵家が感謝を述べ頭を下げる。
並みの下級貴族では一生見れない光景である。
公爵家の頭を決して軽いものではない。
さすがに貴族として最低限の教育は受けているサラティスだ。
これの意味は十二分に理解していた。