第167話「クスタフド・ラヴァー・クスナ」
「そうだ、恐らく君たちはまだ知らないと思うが、先刻大事件が起きたと公表されたぞ」
つまり、今日世に出た情報ということだ。
「どうやらタイメイで人を攫って奴隷にしていた商人が捕まったそうだ」
「っつ」
とうとう出たのか。
諸々の処理があるので、公表まで暫くかかるというのは聞いていた。
「その奴隷達の処遇はどうなりましたか?」
「現在身柄が判明した奴隷は保護され、魔術の解除を試みているそうだ。主犯の商人と領属の騎士数名は事件の全容が解明され次第処刑になるそうだ」
「そうですか。その奴隷が無理やり犯罪行為した場合の処遇とかはどうですか?」
「……特に聞いてないな。そういった詳細はこれからになると思われるな」
「そうね。クスナ領もこれから大変になるわね」
「どうしてですか?」
「サラティスちゃん、クスナ領も一定数奴隷を引き受けているの。主に漁業関連でなんだけど」
「確かに港で見ましたね」
「そうだ。王命が出て、領内で服役している奴隷を改めて全て確認しろと出た」
「それは大変ですね」
「そちらの領も同じでは?」
「トクラスタ様、リステッドは奴隷入れてないんですよ。入れたところで魔獣と戦うくらいしか役割なくて。さすがに、危険と利益の割合が釣りわないので」
ダヴァンが横から説明してくれた。
「確かにそうか……」
リステッドは名産が無かった。
なので奴隷を入れて働かせることがなかった。
サラティスが見たことないのは領内にいないからであった。
なんとか公爵家との食事をそつなくこなすことができた。
翌朝、使用人に呼ばれ執務室訪れた。
部屋の中に入ると見知った人物が来客用のソファーに座っていた。
「初めまして、私はクスタフド・ラヴァー・クスナだ」
「私はサラティス・ルワーナ・リステッドと申します」
「彼が完治した患者というので確認のために来てもらった」
それはソファーに腰を下ろしているタルサードであった。
「タルサード君、下がってもらって結構」
タルサードはお辞儀をし、部屋を出て行った。
「座ってくれたまえ」
ソファーに座る。
分かりきったことだが、これもまた上質なソファーである。
クスタフドも椅子に座っていたが、立ち上がりサラティスの向かいにあるソファーに座り直す。
「昨日、愚息から諸々報告を受けた。領主としてまず、お礼を言わせてほしい」
クスタフドは温かみのある笑顔を向ける。
「疑うつもりはないのだが、領主として信じ込むのはできなくてね。こちらで患者を複数人紹介するので、治療薬を提供してもらえないだろうか?そして、同様に治療薬の効果が確認できたら正式にこれを受けようと思う」
確かに患者が一人なら、奇跡的な場合もあるかもしれない。
「それでしたら、医者や薬師など関係のある人呼んでもらえますか?」
「ほぉ、いいのかね?」
「はい、薬の作り方など教えるので実際やってもらった方が効率が良いと思います」
「こちらとしてはありがたいが、治療薬のレシピを公開することになるのだが、本当にいいのかね?」
サラティスからすればただの二度手間になる。
一度こちらで作り、信用を得てからレシピを共有。
治療に二週間程度かかり、さらにそこから作り方を教えてなると、滞在日数が予定より大幅に増える。
なら初めから教えながらやればその分短縮でき、程よい滞在期間で他の領に行ける。