第163話「どうしてもしたいこと」
「これが薬か?」
「そうですね」
「いやに簡単だな」
「それは先人のおかげですよ」
タルサードにはひとまず、二週間の間口外厳禁をお願いした。
それから二週間が経過した。
その間サラティスは日中、ハルティックと一緒にタルサードの家に訪れ症状の変化や体調などを記録した。
それ以外の時間は市場や海など見て周った。
タルサードの紹介で普通は入れないような店も入れた。
ダヴァンはニュールに関して色々と周ってくれていた。
生魚だけでなく、焼き、揚げなど多数の魚料理を堪能できた。
「出血が止まってから、歯茎などから新たに出血しました?」
「してないな……」
タルサード自身、体調の変化を如実に感じていた。
サラティスの質問に真剣に答える。
「お疲れさまでした、完治したかと。一旦薬は止めて食事は変わらず偏らないようにお願いします」
タルサードは涙を零しながら立ち上がり深く、深く頭を下げる。
「本当に、本当に感謝する。サラティス様のお陰で俺は、俺は……」
「タルサードさん、一つお願いがあるのですがいいでしょうか?」
「当たり前だ!命の恩人だ、俺にできることなら何だってする」
サラティスからのお願い事を聞くと、タルサードは顔を強張らせた。
ハルテックとダヴァンの知恵も借りた。
サラティスはどうしても叶えたいことがあった。
翌日、宿の従業員が慌てて部屋に訪れた。
クスナ領の領主の使いが来ていると。
サラティスは一度領主と会って話がしたかった。
宿を出ると立派な獣牽車が停まっていた。
「サラティス・ルワーナ・リステッド様でしょうか?」
レザクターと同世代くらいのの使用人が声をかける。
「はい。そちらはクスナ様のでしょうか?」
「はい、その通りでございます。こちらにお乗りください」
獣牽車は広大な屋敷に辿りつき、門を潜る。
クスナ領の領主である、クスタフド・ラヴァー・クスナの屋敷である。
「さすは公爵家。立派な屋敷だな」
ダヴァンは獣牽車の窓から屋敷を観察する。
クスナ家は公爵である。
つまり、侯爵家であるあのザバラットより上である。
公爵は現状貴族の中では一番上であり、その上の身分は王家のみである。
本来であれば、辺境伯であり最北端のリステッド家、しかも領主でもなんでもないサラティスが会うことなどそうそうできるものでない。