第162話「調薬開始」
「ほれ、これがお望みのもだぜ」
ダヴァンは籠から買ってきた中身を取りだして広げる。
サラティスにも馴染み深いネイリス草。
お次は懐かしの蜜袋。大人の男性の握りこぶし程度のサイズがある。その蜜袋を慎重に置く。
エミルという魔獣の蜜袋だ。
エミルは草花の蜜を食べる魔獣である。
この蜜袋にはそういった蜜がたっぷりと詰まっている。
そしてベアダボの肝。
はり、つやが良く新鮮であることが見てわかる。
サラティスはまず蜜袋の一部に切れ込みを入れ、蜜を器に入れる。
そして、ベアダボの肝を細かく切っていく。
ネイリス草は手で小さく引き千切る。
そしてこの二つを蜜が出て空になった蜜袋に詰めていく。
中に詰め終えると一瞬火魔術で火を出し、切り口を焼きくっつける。
少し残してあったネイリス草を包丁で細かく切っていく。
そして、それを器の中に入れてかき混ぜる。
混ぜるのはダヴァンに任せ、サラティスは別の準備を始めた。
鍋に水を入れ、火をかける。
沸騰したら蜜袋を入れ暫く煮込む。
お湯が濁ってきたタイミングで蜜袋をすくい、お湯は捨てる。
「これくらいか?」
「ありがとうございます、それくらいであれば大丈夫です」
混ぜていた蜜は初めは透明性の高い琥珀色をしていたが、今はくすんだ黄褐色になっていた。
鍋に蜜を入れ、蜜袋も入れる。
火にかけ、暫くすると嗅いだことのない独特な匂いがしてくる。
野性味溢れる不思議な匂いだ。
鍋をかき混ぜながら、数回に分けて少量の水を入れる。
鍋の中身が沸騰し、ぐつぼこしてくる。
鍋をかき混ぜ蜜をすくいながら、蜜袋にかける。
「ダヴァン、鍋を見ていてくれますか?」
「ああいいぜ。どれくらいだ?」
「中の蜜がなくなるまでですね」
「了解」
サラティスは次の過程の準備にうつる。
調理に用いる専用の紙を広げ置く。
「ほいよ」
「ありがとうございます」
蜜袋を受け取り、袋を切り中の肝を紙の上に敷いてく。
「これは楽でいいですね」
サラティスは魔術を使う。
髪を乾かす魔術だ。
熱風を肝にあて、水分を奪い乾燥させていく。
昔は火魔術で作業していた。
そもそも船上には今使っているような、調理用の魔術具など無かった。
火魔術は気を抜くと直ぐ肝が焦げてしまうので、調節が大変だった。
だがこの魔術は焦げる心配が少ないのでかなり楽だ。
ベアダボの肝の表面は光沢を失いかさかさとひび割れていく。
端が少し上向きに曲がっていく。
サラティスは風魔術で押し付け反りを抑える。
ひっくり返し同じく乾燥させる。
表面が完全に乾燥すると、空の器に入れる。
風魔術で蓋をしながら、中の肝を粉々に砕いていく。
砕いていく最中熱風をあてることでさらに、水分を奪っていく。
ねちょねちょしていた、中身の肝も次第にさらさらと粉末になっていく。
同じく蜜袋も粉末にし、二つの粉末をよく混ぜる。
「完成です」
後は粉を小分けにするだけだ。