第159話「診察開始」
街を歩き、住宅が広く並ぶ区域に入り進む。
年季の入った小さな家の前に。
「タルサードさん、入るぞ」
ヨルバドフは扉を開け家の中に。
部屋の中には、椅子に腰かけていた老人がいた。
サラティスを視認すると、老人はゆっくりと腰をあげる。
「座ってて大丈夫ですよ」
「そりゃ、すみませんね」
強面な老人はにかっと笑い椅子に座る。
「貴族様と聞いてましたが、ずいぶんと可愛らしいお方で」
「公式の場でないので、普通に喋ってもらって構いませんよ」
「だから言ったろ、普通の貴族様じゃねぇって」
「うるせぇ、貴族相手に貴族本人が良しと言っても周りはそうならなぇ場合だったあんだよ。お前も気抜いてると痛い目見るぞ」
「おい、うちのサラティス様はそんな方じゃねぇぞ」
「それは失礼した……はて、どっかで見たような……」
「こいつはダヴァンだ。キルガッテ先生のとこで一時期習ってたやつだよ」
「……ああ!料理人のくせにてめぇで捕りに行く小僧か」
「キルガッテ先生をご存じで?」
ダヴァンの口調が若干変わる。
「ああ。漁師で知らねぇのは潜りだろ。一時期あの人に卸したこともあるぜ」
「なるほど」
そこでいきなりタルサードは横を向き机の上に置いてあった桶に、口から液体を吐く。
「すまねぇな」
貴族相手どころか、客人に対して無作法な行為である。
「ちょっと見せてください」
「構わないが、汚いぞ」
「誰しも一緒ですよ」
桶の中を見ると唾液に混じって血が溜められていた。
つまり歯茎から出る血を吐き出していたのだ。
そして、血が吐けるように用意しているということは日常的な行為になっているということだ。
「タルサードさん、いくつか質問するので嘘や誤魔化したりせず話してください。ダヴァンとヨルバドフさんは悪いのですが外してもらえますか?」
「いいのか?」
それはヨルバドフに対してだ。
「さすがに貴族様に何かするほどボケてはないだろう」
「一応サラティス様、訳を聞いても?護衛としてな」
「私はただの子供です。医者でもなんでもありません。でも、一種の治療行為です。これから治療の為に個人的な質問します。病院なら普通は外しますよね?」
「なるほどな。分かった」
「それにこちらを買ってきて欲しいです」
「おっし、行くぞ」
ヨルバドフを連れダヴァンは出て行った。
「いいのか?」
「いいとは?」
「確かに俺は後が無い老人だ。だが、女子供なら軽くどうにかできる力は残ってるぜ」
「ハルティック大丈夫ですよ」
その言葉に一気に警戒するハルティックを宥める。
「私は少しばかり、魔術が使えます。例えば、タルサードさんが私の首を絞めたとしても、窒息する前に腕を落とせばいいだけですから」
「そりゃ、おっかねぇな。悪いな、お嬢さん。女性貴族なのに男と密室にとか文句言われたら俺はお終いだからな」
「サラティス様はそのようなことは言いませんし、この場に来させるなどいたしませんので」
「それもそうだ、改めて謝罪する」
「分かりました。では質問に答えてくださいね」
「ああ」
「ルーリエ病になる直前、どれくらい船に?」
「六か月程度だな」
「なるほど……。その間の食事内容は?」
タルサードは思い出せる限り内容を語る。
「ほとんど魚だけですね」
「釣った物を食う。それが一番だからな」
「それが一番の原因ですよ」
サラティスは紙にメモを取っていく。
「どういうことだ?」
「ルーリエ病の一番の原因は食事ですから」
「な、なんだと……」
「口を開けてください」
タルサードはいわれるがまま、口を開ける。
サラティスは覗き込み、一心に状態を書き込む。